Novel

□SiriusBoeki
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SIRIUS.BOEKI.@開発部【Heroine】
「おい、そこ…」
「っひゃあああっ!」
突然伸びてきたシンさんの手に、思わず悲鳴をあげてしまう。
「……」

週末。
定時を過ぎたばかりの開発部は少しずつ人が減ってきたとはいえ、まだ残っている人たちが驚いた顔でこっちを見たけれど。
シンさんがジロリと睨むと皆視線を逸らせて、慌てて仕事に戻っている。

「…っす、すみません」
「ったく、何をビクビクしてるんだ。邪魔だ」
シンさんは棚からファイルを数冊取り出すと個室へと戻って行った。
シンさんに開発部の共有スペースのファイル整理を申し付けられてるんだけど…なかなか進まない。
それもこれも、今日は特別な日だから…。

とりあえずの繁忙期を終えた開発部。
明日は珍しくちゃんとお休みが取れる。
それでも仕事をしようとしていたシンさんも、ソウシ専務の命令で強制お休みになってしまった。
昨日の帰り際シンさんは、『明日は仕事の後、時間を空けておけよ』と私に言った。

落ち着いたら覚悟をしておけと言われた言葉がリフレインしつづけている。
それって…それって…デートってこと、だよね。
次の日はお休みだし、時間はいっぱいあってしまうってことですよねっ?!

昨日は緊張で眠れなかった。
今日も朝から口から心臓が出て来そうなくらい、ドキドキしっぱなしだ。
だからシンさんが視界に入るたびに、どうしていいかわからないほど意識してしまう。

いちおう可愛い下着を着けてきたけれど、なにか忘れてないかな…?
ああもう…どうしよう。
大丈夫かな…。

「おい」
「は、はィィいっ!」
突然呼ばれて、思わず声がうわずってしまう。

「ファイル整理は片付いたのか?」
「…は、はい。なんとか」
「なら、ちょっと来い」
シンさんの個室へと戻る。

自分のデスクに腰を下ろすと、
カタカタとパソコンをいじりながら、シンさんは私を見て、クックッと肩を震わせて笑った。

「お前、朝からずっと何を百面相してるんだ」
「ひゃくめんそうっ?!し、ししてませんよ!」
「ニヤけたり困った顔になったり溜息をついたり、まるで猿の小芝居だな」
「さ、さる?!ヒドイ…」
シンさんがあんなこと言うから、緊張しておかしくなりそうなだけなのに…

「緊張してるんだろう?」
「えっ!」
やっぱり見透かされてる?!

「そうだな。明日は休みだし、今夜はたっぷりと時間がある」
「…ええっと…」
「仕事が落ち着いたら覚悟をしておけって言っておいたしな」
シンさんがゆっくりと椅子から立ち上がり、壁際に追い詰められる。

「で?覚悟はできたのか?」
「な、何のことでしょう…」
「へえ。そーゆー態度を取るわけか」
いくら個室といっても壁の一部はすりガラスで、まだ残っている人が外を歩いているのがぼんやりと見える。
「し、シンさんっ…他の人に、気付かれちゃ…う」
「気付かれたりなんかしねーよ。お前が大きな声を出さなければな」

って…!!
声出させるようなことをするおつもりなんですかーーっ?!

「…っ!」
グッと抱きしめられて、耳元にシンさんの熱い息がかかる。
「あっ…」
それだけでビクッと身体が震えて溜息が漏れてしまうけれど、容赦なくシンさんの指はスカートを持ち上げた。
「や、やっぱり…だ、ダメッ!」
「お前に逆らう権限はないといつも言ってるだろう?」
スッとショーツに指が掛けられて、
パサッ…と、昨晩から悩み抜いて選んでつけていた下着が床へと落ちた。

シンさんはそれを拾い上げて、
「触ってねーのに湿らせてんじゃねーよ」
と意地悪そうに笑った。
「ちがっ…」
言い返そうとするけれど、恥ずかしすぎてすぐに言葉が出てこない。

「…っか、返してくださいっ」
「ダメだ。仕事に身が入って無かった罰だ。」
「そんなっ!」
「車を回してくる。お前は正面玄関で待っていろ」
「えっ!パンツなしで行くんですかっ!?」
下着がないまま開発部を出て、廊下を歩いてエレベーターに乗って…正面玄関まで行くのっ!?

「1分でも俺を待たせたら、この下着は処分する」
「ちちょっと待ってくださいっ!!」
慌ててシンさんを引きとめるけれど、シンさんは振り返ることも無くスタスタと出て行ってしまった。
い、いそがなきゃ!

「あ、●●さん、おつかれさまですー」
「お、おつかれさまですっ!!!」
「…?」
開発部の方に挨拶をされるけれど、お尻を押さえていると不審そうな目でみられる。
「シンさんもう出られたんですね」
「はいっ!!私もコレでっ失礼させていただきますっ!!」
思い切り変な目で見られた気がするけど、構わず部屋を出て思わず廊下を走る。
きっと走っちゃいけないけど、一刻を争う。

息を切らして閉まりかけのエレベーターに乗り込むと、
「今日はもう帰れるの?」
エレベーターの中でソウシ専務と出会ってしまった。幸い二人だけで良かったけれど…
「!は、はい。」
「どうしたの?顔が赤いようだけど…息も切れてるし、急いでるのかな?」
「あっ、えっと!シンさんを待たせると怒られるのでっ。特に急いでる理由はないですっ!全然!ほんとに何にもないんです!」
「…ふふ。このあとデートかな」
「!!!!」
改めて言われると更に意識してしまう。
「シンが羨ましいね」
「…え?」
「ううん。ほら、一階だよ。良い週末をね」
「はいっ!お疲れ様でした!!」
……ソウシ専務何か言いたげだったけど、パンツ履いてないのに気付かれちゃってたり…まさかね。ううん、大丈夫よね?大丈夫!
ああ、本当に心臓にわるい…

何とかシンさんが着く前に正面玄関まで来れた。
けれどスースーして落ち着かない。
床がピカピカ過ぎて反射していないか気になって仕方なかった。
絶対歩き方変になってたし…

「はぁ〜…もう…シンさんって、すごいイジワル」
泣きそうな声で呟くと、
「だからあんなヤツやめとけって言ってんだよ」
「は、ハヤテ!と、ナギさんっ!」
すぐ傍に二人が立っていた。

よりによってこんなピカピカの床のところで二人に会うなんてーっ!!

「今帰りか?」
ナギさんに声をかけられるけれど、そわそわしてしまって上手く返事が出来ない。
「なんだ?もぞもぞして。お前、トイレいきてーのか?」
ハヤテが私を訝しげに見る。
「ちちちがっ・・・大丈夫!」
勢いよく答えた拍子にヒールがタイルに引っ掛かって、転びそうになる――

こんなとこで転んだら見えちゃうーー!!!

がしっ
ナギさんがすんでのところで抱きとめてくれる。
「ほんとに大丈夫か?」
「…ありがとうございます。問題ありません」
「…?やっぱり変だろ。具合悪いなら送るか?」
ナギさんがそう言った途端、目の前にシンさんのポルシェが止まって、シンさんが降りてくる。
「何やってるんだ」
「あ、いえ。こけそうになったので」
「…」
シンさんは少し黙った後、
「俺の女が手間をかけたな、ナギ」
おお俺の女っ!
ハヤテとナギさんの前で改めて言われると少し照れ臭いけど…。

「…いや。」
ナギさんが腕を掴んだまま短く答える。
少しだけ険悪な雰囲気に、ハヤテに助けを求めようと見つめてみたけれど、何故か目を逸らされる。
「そいつの面倒は俺が見るから手を離せ」
シンさんがナギさんの腕をじっと見つめると、私を支えてくれていた腕がゆっくりと離された。
「そーかよ」
ナギさんがじっとシンさんを睨んだ。

「ほら、行くぞ」
シンさんに車へと促されて。
「は、はいっ」
車に乗り込もうとすると、
ナギさんはいきなり、再び私の腕を掴んだ。

「…」
「え、ナギさん…」
何だろう…??
何かを言いたげにじっと見つめられる。
「…また、来週な」
「はい、また来週」
どうしたんだろう…?

「●●」
シンさんに呼ばれて、私は転ばないようにスカートを気にしながら車の方へと歩いていく。
私が車に乗り込むと、シンさんは不機嫌そうな顔をしてすぐに車を走らせ始めた。

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