Novel

□SiriusBoeki
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SIRIUS.BOEKI.@居酒屋【Hayate】

「おいトワ、てめー何避けてんだよ」
オレの顔を見るなりクルリと向きを変えたトワを捕まえる。

「えっ、べ、べつに避けてませんよ…?」
「ほんとかよ。ま、ちょうど良かった。オレ今日はもう仕事終わりなんだよ。お前付き合えよ」
「えっ、僕、今日はちょっと呑みに行く気分じゃあ…」
「はぁ?お前の気分なんて関係ねーし。もう仕事終わりなんだろ?いつもの店に行こうぜ」
「ええ〜…」
トワの肩に手を回して強制的に連行する。
受付を通り過ぎようとすると、女達が集まっているのが目に留まった。

「あ、シンさん」
トワが人だかりの中心を見て呟いた。
その声が聞こえたのか、中心に居たシンがチラリとこっちを見る。
シンを取り囲んで、女達はせわしなく我先にとシンに話しかけていた。
「シンさん。最近素敵なワインバー見つけたんです!今日これからどうですか?」
「あっ!私も美味しいイタリアンのお店を知ってるんですよ」
「夜景の綺麗なラウンジはどうですか?きっとシンさんも気に入りますよ」
シンは誰の相手をするふうでもなく、受付のパソコンと向き合っていた。

ケッ。
どこがいいんだ、あんなスカした根暗野郎。

「行くぞ、トワ」
トワを引っ張った瞬間、珍しくシンから話しかけてきた。
「総務のトワと営業のハヤテ、か」
オレはシンを睨みつけた。

「お前に呼び捨てされる筋合いはねーよ!ハヤテさんって呼べよ、ハヤテさんって!オレのほうが本社では先輩なんだからな!」
「フン。相変わらず騒がしいヤツだな」
「シンさん、営業のハヤテ君と総務のトワ君と知り合いなんですか?」
「じゃあみんなで呑みにいきましょうよ〜」
女達はこっちにまでネチッコイ声をかけてくる。

げっ…!
こいつらにつかまったら、めんどくせえ!

「オレは別にこんな野郎と知り合いでも何でもねーし!ほら、行くぞ、トワ!」
「えっ?あ、は、はい…」

「おい、トワ。しばらくあいつを一日中システム部に借りると上司に言っておけ」
シンがトワに話しかける。
あいつって、アイツのことだよな…

「せ、先輩をですか?」
「今こっちは忙しいからな。例えドンくさいヤツの手でも借りたいんだ。社長許可はとってある。」
「は、はい。わかりました。伝えておきます」

「おい。…アイツは確かにドンくせえカモしれねーけど、お前、いくら上司だからってそんな言い方しなくてもいいんじゃねーの?」
オレはシンに向き直って睨みつけた。
「別に俺がアイツをどう扱おうがお前には関係ないだろ」
シンは動かしていた手を止め、冷えた声で言い放った。

そしてゆっくりと唇の端を持ち上げて、底意地悪そうに笑う。
「いい機会だから言っておくがアイツは俺の女だ。ちょっかいかけようなんて思わねーことだな」

なっ……!

「それは単なる噂じゃなかったの〜!?」
「ええ〜っ!!」
「ちょっと、どの子よ?」
「シン様を独り占めなんて許せないわ」
周りの女達が一斉に騒ぎ出す。
「は、ハヤテさんっ!僕、すごくお酒飲みたくてたまらなくなってきました!!早く行きましょう!!!」
茫然と立ち尽くす俺の腕を、トワが引っ張った。


「くっそ!何なんだよっ!シンの嘘に決まってる!あんな性格悪い野郎と付き合うわけねーよな!百歩譲ってそうだとしても絶対脅されてるに決まってる!そう思うだろ!?トワ」
「ハヤテさ〜ん。飲みすぎですよ…ペース早すぎ」
「うるせー!トワももっと呑め!…そうだ!アイツは抜けてっから、シンに弱みとか握られてて強要されて…」
酒をぐっと飲み干して呟いた希望が、意味のないものだと俺だって少しくらいはわかってる。

「ハヤテさん。シンさんって、そんなに悪い人じゃないみたいですよ?」
「悪い人じゃない?!お前、オレとシンとどっちの味方なワケ?」
「み、味方って、そんなこと言われても困りますけど…」
「じゃあドッチなんだよ?!」
「僕は先輩の味方なんです!」
「はぁ?!お前もアイツを狙ってんのかよ」
「お前もって…他に誰が?やっぱりハヤテさんは先輩のこと…」

「ちちちちげーよ!!オレはあんなチンチクリン別になんっとも思ってねーしっ」
勢いよくテーブルに置いたグラスは大きな音を立てる。
「あ!トワお前。オレがアイツの事、す、好きだとか思ってるんじゃねえだろうな?あー。あれだよ、あれ!同期だからな!気にかけてやってるだけだ。わかるよな!?」
「わ、わかりましたけど…そんなに大声出さないでくださいよ」

トワが溜息をついて周りを見廻すと、ちょうど入口からナギ兄が入ってきた。
「………。じゃあな」
俺たちの姿を見て背を向けたナギ兄の背広の裾を、トワが掴んだ。

「な、ナギさんっ!!助かった〜!!!」
「助かった、じゃねえ。離せ」
「いいえ離しませんっ!僕だけじゃハヤテさんが手に負えないんですぅ」
「知るか」

「僕を助けると思って帰らないでくださいよ〜。ナギさんもお酒を飲みにきたんですよね?!」
「…急に帰りたくなった」
「おいトワ!手に負えないって何だよっ?!ナギ兄!おつかれっス!」
俺が満面の笑みでナギ兄に笑いかけると、ナギ兄は何故か舌打ちしてからどかっと椅子に腰を下ろした。

「ったく、何をそんな荒れた酒を飲んでるんだ」
「シンがむかつくんっス!」
「…今日に限ったことじゃねーだろ。お前がいつも言ってることじゃねえか」
「今日は…アイツは俺の女だ〜とかってテキトーなこと言ってっから…」
俺の言葉にナギ兄はしばらく黙り込んだ。

「それは事実だろ」
「へ?」
「俺達がとやかく言うことじゃねー。彼女を好きなら男らしくはっきりと伝えればよかったんだ。想いも伝えられずにあっさりシンにとられる方がわりーんだ」
ナギ兄は淡々と酒を口に運んで、そう言った。


「伝えるって…お、オレはべつになんともっ…」
「ならグダグダ言ってんじゃねえ」
心なしかナギ兄の声は怒っているように聞こえる。
何でナギ兄は…怒ってんだ…??

「さすがナギさん。ハヤテさんが一気に大人しくなった」
「おいトワ、さっきからテメー生意気だぞ!だいだいお前知ってたんだろ?!たいして驚いてねーじゃねーかよ!」
「すみません。だって先輩を見てるとすぐわかるじゃないですか。それにシンさんもよく総務部に迎えに来るし、僕にけん制するみたいに睨んでいくし」
「あの冷血漢が?!ふんっ、女をわざわざ迎えにいくなんてカッコわり。おおオレならそうまでして女の気をひきたくねーケドな!」
「シンは口も悪いし冷たく見えるが、わりと世話焼きなんじゃねーか」

ナギ兄の言葉に、俺もトワも驚きを隠せない。
「「世話焼きっ?!」」
「アイツは細かいし、よく気が付く。プライドが高くて負けず嫌いで独占欲も強いしな」
「ナギさんはシンさんと同じ部署にいたんですよね」
「ああ。完璧主義だから他人にも厳しいし反感を買いやすいヤツだったが、仕事は出来る」
「だからって性格悪すぎだろっ?!あんな奴と一緒にいたら疲れるに決まってるぜ!」
「確かにハヤテはアバウトだから合わねーだろうな」
オレがアバウトだというナギ兄の発言には疑問があったが、合わねーってことに関して大納得だ。

「先輩はシンさんのこと、誤解されやすいけど本当はとっても優しい人だって言ってました。シンさんといる時の先輩、すごく可愛いんですよね」
トワが思い出すかのように頬杖をついた。
「あんな先輩はみたことないくらい、可愛らしいんです。あっ、もちろん先輩はもともと綺麗な人ですけど、こう、更に輝きが増すというか、見とれてしまうというか…」

トワの言葉に、俺もナギ兄も何故か黙り込んでしまった。
誰も数分間言葉を発せずに、目の前の酒を飲み干す。

「っしゃー!!!トワ!ナギ兄!!今日はオレが奢るからトコトン飲もうぜっ!!」
下がる感情を持ち直すかのように、オレは無理に大声をあげた。

「は、ハヤテさんっ。だから声大きすぎますって!す、すいません、みなさん…お騒がせしてます」
トワが周りに頭を下げた。
「しかたねーな。付き合うか」
ナギ兄が溜息と共にジョッキを掲げる。

明日になれば――――
酒臭いオレはいつもと変わらない態度でアイツに声をかける。

もう〜ハヤテお酒飲みすぎだよってアイツが嗜めるのを、オレは笑って返してやる。
バーカ。
お前が誰を見ていようと、
俺だって浴びるほど飲んで気合入れたい日があンだよ!ってな。

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