Novel

□SiriusBoeki
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「お、女って・・・あのぅ、それは、ええとそのつまり・・・?」
「答えは5秒だけ待つ。5・・・4・・・」


ちちちちちょっと待ってくださいっ!!話が急すぎてわけがわからないんですがっ!そんな大事なこと5秒で締め切られても困りますっ」
「5秒あればじゅうぶんだろ?」

「それに私、シンさんの事まだそんなに知らないですし、シンさんも私を知らないでしょうしっ・・・」
「お前、昨日は仲良くなったって言ってたじゃねーか」
「そ、そうですけどっ。ちょっとまってくださいっ。頭の・・・いえ心の整理がっ・・・訊きたいこともきけてないし」


「チッ。しかたねーな。質問があるなら3つ以内にしろ」
「えっ!し、質問っ・・・ええと、ええと・・・その眼帯はなぜ着けてるんですか?ずっと着けてるんですか?」
「眼帯?・・・これか。俺は両目の色が違う。その事についてとやかく尋ねられるのが鬱陶しいからつけている。目に傷があるから見せたくないと言えば、それ以上は深く突っ込まれないからな」
訊きたいことが多すぎて質問がすぐに浮かばずに迷っていると、
「ずっと着けている、という意味が四六時中ということなら、風呂とベッドに入る時は外す。着け始めた時期を訊きたいなら母を亡くした頃だから17か18の頃からだ。で、質問はあと一つだな」

「ええっ!さっきのですでに二つ使っちゃったんですかっ?!」
まさかの展開に、あと一つだけになった質問を、じっくり考える。

「じゃあ・・・シンさんは・・・どうして俺の女になれって、私に言うんですか?あっ、そうしたいからとかそういう答えは無しですよ?」
私を好きなんですかとも訊きたいけれど勇気が持てなくて、しかもそれは3つ以上になるのかなと、思い留まってしまう。

「俺はズケズケと踏み入ってくるヤツが嫌いだ。うっとおしい女も苦手だ。ペースを乱されるのも腹が立つ」
「はい・・・そんな雰囲気がプンプンします」
私の返しに、シンさんはじろりと睨んだ。


「お前との出会いは最悪だったし、毎日ブツブツうるせーし、ペースも乱されっぱなしだ」
「すいません・・・」
そんなに迷惑かけてるのかな?と自分の行動を思い返してみる。


「俺はまたそのうち海外に行くことになるだろう。昨日、お前はそれを淋しいと言った。」
「はい。淋しいと思います」
出会ってから間もないけれど、それは心からの素直な感情だった。
初めは意地悪で怖い人だと思ったけど、近づけば近づくほど、もっとシンさんのことを知りたいと思ってしまう。


「・・・この数週間で、俺にもそういう感情ができたような気がする。だからお前が淋しいと口にした時、どうしていいかわからなかった。俺は女に対して執着をもったことがないから何故だかよくわからねーんだが・・・・お前といることはうっとおしいと思わない。むしろ、面白いと感じることがある」
言い終えた後、シンさんは照れたように横を向いた。

「お、おもしろい・・・?ですか・・」
「ああ。どんくせーと思うし、何でこんなこともできないんだと苛立つし、バカかと思うことも多い。部下としてもほとんど役に立ってない。」
「あの・・・私の質問の答えから離れていってません?さっきは褒めてもらえたのかと思いましたけど、やっぱりまた、悪口に聞こえてきましたけど・・・」

「もしかしたらナギに影響されて焦ってるのかもしれねーな」
シンさんが大きく息を吸ってから、吐き出すように言った。
「え?ナギさん・・ですか?」
なぜそこでナギさんの名前が出るんだろうと不思議に思う。

「お前が鈍感で、誰のものでもないうちに、自分のものにしておきたいのかもな」
ぽつりと呟いてから、不意にシンさんの手が頬に触れた。


「こうして俺に触れられるのが嫌だと思うか?」
「・・・いいえ、嫌なんかじゃ、ないです・・・」
シンさんの真剣な表情に、正直な気持ちを告げる。

車の中でキスされた時、シンさんは唇を近付ける前に一瞬だけ、私に拒否するチャンスをくれたように思う。
逃げることだってできたはずのキスを受け入れたのは、私のなかに芽生えてきた想いが膨らんだからだった。
強引に奪われることを、本当は望んでいたからだった。


「俺を叩くなんてありえねーな。ったく、たいした女だ」
シンさんは可笑しそうにふっと笑った。

「あれは・・・シンさんが、いきなりキスしておいて、からかうっていうか意地悪なことを言うからでっ!」
「お前が無防備すぎるから苛めたくなるんだよ。隙だらけだとどんな男につけいられるかわかんねーだろ」
「じゃあ・・・シンさんも、つけいった事になるんですか?」
「フン。俺はいいんだ。」
ふわりと腕が伸びてきて、抱き寄せられる。

気付けばすっぽりと腕の中に閉じ込められていた。
「私、まだ返事をしてな・・・」
そう言いかけた唇をそっと塞がれて。

「5秒経ってる。答えを訊かなくても・・・お前はもう、俺のものだ」

シンさんの甘い囁きに―――
何度も重ねるキスで、私はようやく自分の想いを伝えることが出来たのだった。










それから数日後=

私は、アプリケーションソフトの作成をしていた。
勉強成果をみるために、と、シンさんが初めて開発部らしい仕事をくれたのだ。
簡単なものだからすぐ出来上がるはずだと言われたけれど―――
何度も同じ質問を繰り返した私に、シンさんのイライラした声が飛んでくる。

「一体何度言えばわかるんだ。お前の脳みそは記憶しておくシワ一つない構造なのか?」
「多分あると思うんですけど、人には向き不向きが・・・って、あれ?何か画面がおかしなことに・・・あれれ?」
本を頼りにコンピューターを触っていたら、次々と変な画面がでてきてしまった。

「どけ。もういい。それ以上触るな」
シンさんにあけ渡すと、あっという間に直ってしまう。
「すごいですね!さすがシンさん!」
「褒めてる暇があるなら壊さない程度の知識をつけろ」
「すみません・・・」

仕事中のシンさんは容赦なく厳しい。
部下にして良かったと認めさせて見せる!と宣言したことへの道のりは、まだまだ遠いみたいだ。

「今日から就業時間後にみっちりしごいてやる」
「へ?」
「いくら本を読んでも呑み込みが悪いようだからな。仕方ねーから俺が貴重な時間を割いて直々に教えてやる」
「ほ、ほんとですかっ?!」
「言っておくが厳しいぞ。だが、ちゃんと覚えられたら褒美をやってもいい」
「ご褒美っ?!」
「お前は犬か。褒美くらいで喜ぶな」
「ワンって鳴くべきですか?」
「フン。ワンじゃなくてもっと違う啼き方を教えてやる」
「うわっ。シンさんが言うとすごくエッチに聞こえます・・・」
「何をツバのみこんでんだ」
「あいた!ぶたなくてもいいのにー」
「身体で覚えろ。やらしー想像してるヒマがあったらノータリンな頭に知識を詰め込め」
「はぁい」


私たちの関係は相変わらず、甘いんだか厳しいんだか容赦ないのだかわからないけれど・・・

それでも私は今日も願う。

意地悪だけれど、とても優しいシンさんの。
ずっと傍にいられますように――と。


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