Novel

□ShortStory
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【食べたいくらいに愛してるB】

近くで見るとますます綺麗だったなぁ…さっきの女の人。
シンさんは付き合ってないって言ってたけど他の女の人より親しげだったし、シンさんと並ぶと凄く画になっていて思い出すとモヤモヤした気分になる。
思わず先に戻ってきちゃった…

酒場に戻ると船長は沢山の美女を侍らして上機嫌にお酒を飲んでいた。
「お?戻ったか。さぁ飲め!って、おいおい。せっかくの愛の日にシケた顔だな!」

「…船長。もしグラマー美女と私とどちらかをお酒の相手にするとしたらどっちがいいですか?」
「そりゃお前グラ…」
「グラ?」
「がっはっは!この酒うめえな!」
「…」

やっぱり普通は、そうだよね。
綺麗な恰好のセクシーな女の人に相手をされると嬉しいんだろうなぁ…
シンさんが選んでくれたドレスのサイズはピッタリで、グラマーとは程遠い胸元はフリルで可愛らしく隠されている。
落ち込んじゃダメ!シンさんにもいつもどうしようもない事を悩むなってあれほど…え?どうしようもない?

「まぁ酒の場は色っぽい女が多いが、ちんちくりんも愛嬌があって俺はいいと思うぞ!」
「船長っ!質問です!どうやったら私はグラマー美女になれますかっ?!牛乳は毎晩飲んでるんですけど!」

ぶっ

背後から吹き出す声が聞こえた。
「な、ナギさん…?」
「いや、お前。やけに最近ホットミルクばかり飲むと思ったら…ぐらまー美女になるつもりだったのか?」
「はい!どうやったらなれますか?」
「…別にならなくていいんじゃねーのか」
「急にグラマーは無理でもプチグラマーくらいなら何とかなりませんかね?」
「だからお前は、そんなのにならなくてもいいんじゃねーか」
ナギさんが諭すように私の頭にぽんっと手を置く。

「だよなナギ兄!ずっと豪華なフルコースばっか食ってる奴が、シンプルな焼いただけの骨付き肉を初めて食ったらコレ滅茶苦茶うめーじゃん!ってなるだろ?」
ハヤテさんが横から得意げに説明してくれる。
「え?はい…フルコースと…骨付き肉?」

「で。やっぱ骨付き肉をローストしたシンプルなメシが一番だな!と思うわけだ。シンも多分それだな。あいつ舌肥えてっしエリート育ちだから良いモンは結構食ってきただろうしな」
「それって…私は骨付き肉焼いただけのほう…?」
「まー骨付き肉は言い過ぎだな!手羽先くらいじゃねえの?」
「手羽先…」

「勝手に人の女を手羽先と同じにするな」
振り返るとシンさんが居た。
ぐいっと身体を引っ張られてシンさんに引き寄せられる。
「ったく。さっさと戻りやがって」
シンさんは私を隣に座らせてどかっとソファに腰かける。

「へーへー。腹減ったから肉食ってこよ」
ハヤテさんが立ち上がり、
「痴話ゲンカも程々にしろよ」
ナギさんもお酒を持って立ち上がり、離れていく。

「破けてるドレス着てるじゃない」
「化粧っ気もないし、ココに不似合いな顔ね」
「シン様は女の趣味が変わったのかしら?」
女の人たちがヒソヒソと言いながら、遠巻きに私とシンさんを見比べる。
またシンさんが悪く言われちゃうかな…
少しだけシンさんと距離を取る。
けれど、すぐに身体を引き寄せられて、隣に居たシンさんの手が顎をぐいっと自分の方に向けた――

「シンさ…んっ?!」
声をあげる間もなく、大勢が見ている前で唇が重ねられた。
「んんっ…!」
息継ぐ間もなく、ソファに倒れ込みそうな程の深いキスが落ちてくる。
条件反射でトロンとしかけた脳内が、寸止めのように唇が離されたことで理性を取り戻す。
「…はぁっ」
息継ぎをすると、ピュウッと船長の口笛が響いた。
おそるおそる周りを見回すと、女の人たちやシリウスの皆、酒場に居た全員が私とシンさんに注目していた。

「ししししシンさんっ!なななんでっ!」
思わず唇を抑える。
身体じゅうが熱い。
火が噴きそうとはまさに今の状態だ。
は、恥ずかしすぎるっ!

シンさんは私の頬に手を添えた。
そして二人きりの時にそうしてくれるように、優しく撫でる。
「お前は確かにグラマーってタイプじゃねえがそんなことは大した問題じゃない。俺はどの女よりもお前を一番抱きたいと思ってる。それで充分だろ?」
色っぽい声音に苦しいほど心臓の音が高まって、たどたどしい返事しか出てこない。
「は、はい…」

シンさん…酔ってないよね?
何で皆の前でこんなこと言ってくれるんだろう…!何か悪い物でも食べちゃったの?
あ!まさかチョコケーキ?!

シンさんは突然船長の方へ向き直った。
「船長。やはり今夜は二人で過ごします」
「そうしろそうしろ!●●を色々大きくしてやれ!」
大きくって、色々って…ナニを?!

「ほら行くぞ」
シンさんに手を引かれ、酒場の外へと連れ出される。
外の冷たい空気が熱を帯びた身体に心地いい。

す、すっごく恥ずかしかった…
でもすごく、嬉しかった。

シンさんは立ち止まると、はぁっと溜息をついた。
「ったく、あいつらの前でガラにもないこと言っちまったじゃねーか」
「へ?」
「そもそもお前がつまらねーことで暗い顔してるからだ」
「いた!」
ピンッとデコピンされる。
よく見るとシンさんの顔も少し赤い。

「もしかして…シンさんも恥ずかしかったんですか?!」
キスした後落ち着いた顔で嬉しい事言ってくれたから、シンさんも照れてるなんて思わなかった。

「皆の前でキスしちゃいましたね。シンさんがまさかそんなことしてくれると思わなくてビックリしました」
「フン。くだらない事を言うヤツらに、他のどの女よりお前が綺麗だってことを見せびらかしたくて戻ったんだ。文句があるか」
そ、そうなんだ…
「…ってまたガラにもないこと言っちまったじゃねーか」
「ふふ。有難うございます!嬉しいです!」
思わず笑うと、シンさんは繋いだ手の指を絡めた。

「船に戻るか」
「はいっ!」
「グラマー美女になりたいんだったな」
「え?そ、そうですね。出来れば…」
「ならお前の少ない色気を俺が最大限に引き出してやる」
「あの…シンさん凄く悪い顔してますが」
「ナニをさせてやろうか」
「あの…やっぱり色気は程々で大丈夫かなと」
「馬鹿か。俺の女なんだから程々なんてありえねーだろ」

「う…まだ心の準備が!それにさっきあんなに…」
「食い足りてると思ってるのか?」
「足りてない…んですか?」
「当然だ。プチグラマーくらいにはなりたいんだろ?」
「聞いてたんですか?!」
「…なってるんじゃねーか」
「へ?」
「少しだけだが成長してるって言ってるんだ」
「ほんとですか!?」
「だからこれからも俺に任せておけ」
「はいっ!これからも宜しくお願いします!」

ぷっとシンさんは吹き出すように笑う。
それにつられて私も笑って。
二人で笑い合う。

なんてことの無いやり取りが、こんなに幸せを感じさせてくれる。
成長、出来てるといいな。
グラマーにはまだまだ程遠いかもしれないけど、シンさんの側にいればいつかきっと――





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