Novel

□ShortStory
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「うぉおぅっ!!!!な、ナギ兄ィィっ、コレはほんの出来心っつーモンでっ」
口いっぱいに頬張った肉を咀嚼しながら、オレは精一杯身の潔白を訴える。
潔白つーか完全にクロな現行犯だということは否定できねーんだが、それでもささやかな抵抗を試みる。

腹が空いて夕食まで待てずにキッチンに忍び込んだまではいい。
運よくナギ兄がいないのを見計らって肉を口に頬張った瞬間、背後にナギ兄が――!!

「…て、アレ?怒らねえのか?」
オレのつまみ食いなんてどうでも良いと言わんばかりに、ナギ兄はぼうっとした顔でトマトを握って立っている。

「何やってんだ…」

ぐしゃっ
唸るような声と共にナギ兄の手の中のトマトが握りつぶされた。

げっ!やっぱバレてる…よな?
「わ、悪かったよ!だから夕食抜きだけはカンベンッ…」
とりあえず謝ってみたが、ナギ兄の視線はナゼかオレを通り越して宙を泳いでいる。
絞り出された声もまるで独り言みたいだ。

「何やってんだ、俺。はぁぁあ〜…」
ナギ兄は大きくため息をついたあと、トマトを握ったまましゃがみこんだ。

「ナギ兄?!どーしたんだよっ。何か悪いモンでも食ったのか?」
「ん?ハヤテか」
ようやくオレに気付いたというふうに、ナギ兄がオレを見定める。

そしてじっとオレを見てから――
「お前、どうしようもなく自分が情けなく思えた時ってねーか?」
「は?何だよソレ。ナギ兄、様子がオカシイぞ」
「無駄だってわかってても、どうしても自分を止められねえ時ってあるんだよな」
「お、おう!男にはそういう時があると思うぜ!」
「…」
何だかよくわからねーが、ナギ兄が何かに悩んでいる様子だと言うのはわかった。
そして幸いにもつまみ食いの件はバレてねーみたいだ。

「あやうくやっちまうトコだった…」
「やっちまう?何を?」
つまみ食いか?
「でもあんな無防備でいられたら余計出来るわけねーじゃねーか。ああクソ、でもやっちまってたら何かを変えられたのか?」
「だ、だから何の事だよ、ナギ兄」
「なのに結局俺は、無理やり奪っちまうほど悪者にもなれねえ」

ナギ兄の話してる内容がワケわかんねーぞっ!!
まさか変なキノコとか食ったのか?!
ナギ兄に限ってそんなわけねーよなァ…。

ぐしゃぐしゃに潰れたトマトから、汁が滴り落ちている。
「とにかく手を洗ったほうがいいんじゃねえ?」
意味不明な会話を終わらせようと言ってみるけれどナギ兄の独り言は続く。

「ヤツもヤツだ。気になってしょうがねえクセにいつまでも強情張ってるから、俺が入る隙が出来てると思っちまうんだ。チッ…俺に言わせれば贅沢以外の何ものでもねえ」
超絶珍しく喋り続けるナギ兄に、やっぱ変なキノコ疑惑の色が濃くなってくる。

パシンッ
突然ナギ兄は自分の頬を叩いた。
「やめだ。ウダウダ考えちまうなんて俺らしくもねえ」
いや。頬にトマトついてっけど…ナギ兄…?
ダイジョーブかよ?
そして勢いよく立ち上がって包丁を手に、いつもの手際で料理をしはじめる。

よくわかんねーけど解決したのか?

「な、ナギ兄…?」
恐る恐る声をかけると、
「ハヤテ。まだいたのか?」
「まだいたのかって、オレはさっきからナギ兄を心配して…って、うおっ!」
「手伝わねーなら厨房でウロチョロすんじゃねえ。つまみ食いしやがったら三枚におろすぞ」
包丁を向けられて、マジで三枚におろされそうないつもの迫力で睨まれる。

「わ、わかったよ。出てくって」
良かった。
肉のつまみ食いはバレてねーみたいだな。

ほっと胸を撫で下ろしてキッチンを後にすると、背後からナギ兄の不思議そうな声が聞こえる。
「チッ。何だよ。このトマト潰れてるじゃねーか。煮込むしかねーな」

!!
…やっぱナギ兄がヘンだ。



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