Novel

□ShortStory
5ページ/15ページ



<嫌がる俺を無理やり>

翌朝。
目が覚めると理解しがたい光景が視界に入ってきた。
目の前の女は衣服を身に着けていなかった。
脱がせた覚えはない。

…おそらくコイツが寝ぼけて脱いだんだろう。
俺は昨夜彼女を抱きしめて眠りについた。
彼女の身体が持つ熱にいつしか眠気がやってきて朝まで熟睡していたはずだ。
彼女と同じベッドで眠るようになってから俺の眠りは深くなっていた。

あれくらいの酒で絡んだうえに服を脱ぐようではコイツが酒を飲むときは常に側にいないと危険だ。
こんな様子じゃ他のヤツと何があるかわからない…

しかも昨夜我慢した人の気も知らずに、刺激的な格好でスヤスヤと寝やがって…


「…わぁ〜かわいい犬だぁ」
突然俺を引き寄せ頭を撫でる。
犬?!俺を犬扱いか?!
「…っ離せ。クソガキ」
振り払うと、今度は撫でる対象をさがして彼女の腕は彷徨い、近くにあった毛布に抱きつき、撫でている。
「ああ…クソッ…」
その呑気さと無防備さに若干の怒りを覚えた俺は、ベッドに彼女を残して航海室に向かった。



着岸時間を分単位で計算していると、心が落ち着くだろう。
航海室で雑念を払うべく、机に向かう。

ふと視線を感じて顔を上げると、船長がニヤけた顔で立っていた。

「酒は美味かったか?」
「アイツにあんな良い酒の味がわかるわけないですよ」
「微熱があるっつってたからな。俺の診断ではアレは恋の病だろう」
「……いつからドクターになったんですか」
「はっはっは。ああいうのは、ソウシより俺の方がプロだ!あの微熱の特効薬は、惚れた男に抱かれて熱を放出させることだな!」

…チッ、余計なことを…

「アイツに酒を渡さないでください」
「何だ?不機嫌だな、シン。酒は役に立たなかったのか?」
「役に立つどころか迷惑です」

昨夜のように煽るだけ煽っておいてイイところで熟睡されたら拷問以外のナニモノでもない。
不意に今朝の彼女の白い胸元が浮かび、俺は振り払うように手元の海図に意識を集中させる。

「はっはっ!あの酒がうまく効くと思ったんだが、ちんちくりんの女には強すぎたのか…」
船長が航海室の外に目をやった。
ちょうど彼女がこちらに向かってやってくるところだった。


「船長!おはようございますっ…いたた…」
「二日酔いか?情けねえな」
「うぅ〜。船長みたいにお酒強くないですから…」
「はっはっは。今にお前も海賊らしく酒に強くなるはずだぞ!な?シン」
「…多少はそう願いますね」

少なくとも、他の男の前で絡んで服を脱がない程度には、な。

「酒の礼は貰ったぞ。シンが悩むという珍しいモノが見れた。いやー。面白かったな!」
船長は笑いながら航海室を出て行った。


……




二人きりになった航海室。
痛そうにオデコに手を当てている彼女を見つめる。

「服、着たんだな」
その言葉に彼女の顔がみるみる赤くなった。
「あの…ど、どうして私…服を着てなかったんでしょう?」
「覚えてないのか?俺を押し倒したこと」
「えええっっっ!!」
「お前が自分の服を脱いでから、嫌がる俺を押し倒し、無理やり…」
「うううううそですよね!そそそんなことしたんですか私っ?!」
彼女の顔が、真っ青になっていく。

「アホ。冗談だ。タックルされたのは本当だが。服は寝ぼけて勝手に脱いだんだろ」
「…シンさん…ごめんなさい」
「なぜ謝る?」
「だ、だって…何だかご機嫌悪そうですし…迷惑をかけた気がするから…」
「気、か?」
「いえっ!!シッカリバッチリ迷惑かけましたよねっ…!!」
「覚えているのか?」

「うーんと。ちょっとだけ…シンさんに絡んだ記憶が途中までは…何となくあります」
「フーン」

途中、か。
彼女の腕を引き寄せ、唇に軽くキスをする。

「しっ、シンさんっ?!」
「フン。酒くさいな」
「う…」
彼女がうなだれる。
「どうした?」
「だって…せっかくキスしてもらったのに朝からお酒の匂いなんて…恥ずかしくて」
「今更気にするな。お前の失態なんて見飽きてる。それに…」

「それに?」
「もういちいちキスを意識するなって言っただろ?何度だってしてやるから…」

重ねる唇に、甘い酒の味がふわりと香る。

「まぁ…いちいち意識してる、お前のそういうトコが可愛いと思ってるんだけどな」
「…シンさん…」

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ