Novel
□ShortStory
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「アホ面で何ジロジロ見てるんだ」
額に冷たく冷やした布を当てながら、シンさんに思いっきり睨まれる。
ものすごく珍しいことに、シンさんは『風邪』にかかってしまった。
不摂生なことはしないから、風邪なんて引いているのを見たことないのだけれど。
どうも私の寝相と寝言が酷くて、シンさんの毛布と睡眠時間を夜な夜な奪っていたらしい。
今朝から高熱が出てしまって、絶対安静だとソウシ先生から言われている。
「えっ!」
「どーせ珍しいもんが見れたとか、弱ってるから今がチャンスだとか、つまんねーこと考えてたんだろ」
「そ、そんなこと…」
考えてました!バッチリ考えてましたよ!!
何で気づいちゃったんですかー?!
とは言えずに。
「そんなことありませんってば。私も反省して、ちゃんと看病してるんです!ほら、額の布、そろそろ変えますね」
「いい。自分でやる」
「自分でなんてダメです!高い熱があるんですよ?顔も赤いし、どーんと私にまかせてください!」
「…チッ」
病人なのに!
全然甘えてくれずに。
むしろ、うっとおしがられてるような?
ううん!気にしない!!
こんな時にしか、お役にたてないもんね!
ばっちり看病して、シンさんに元気になってもらって!
<お前のおかげでよくなった。感謝してるよ。ありがとうな>って、褒めてもらって。
見直してもらうんだ!!
「おい」
「はい?」
「お前は布の一つもロクにしぼれねーのか?!」
見ると、ビチャビチャに濡れたままのの布がシンさんの額にべろーんと乗っかっていた。
うわあああ!
考えごとしすぎてたっ!
シンさんの濡れた髪がクルンとはねている。
水もしたたる……って見とれてる場合じゃないっ!!
「きゃああっ!すみませんっ!すぐ絞りますからっ!」
慌てて布を絞り、シンさんの額を拭いた。
「ったく。ただでさえ寒気がしてるんだからカンベンしてくれ」
「すみません…」
迷惑かけちゃった…
でも!
コレで名誉挽回っ!
「実はオカユを作ったんです!食べてください!」
「オカユ?」
「はい!ヤマトの病人食なんですよ。消化が良くって食べやすいですよ」
「って、……何するつもりだ?」
「え?だからふーふーして、アーンって」
「自分で食える!」
シンさんが、私の手からスプーンを取り上げようとして。
「だめですよ!シンさんは今、病人なんですから。こんな時は甘えてください!」
ふふっ。
シンさんに強く言えるなんてカイカン!
シンさんは諦めたのか、溜息をついてから、私の差し出したスプーンをぱくっと咥えた。
……っ!
「自分でアーンとか言いながら、ナニ真っ赤になってんだよ。バカか、お前」
だって、なんか急激に胸の心拍数がっ!!
脈がっ!!
なにこれ…思い描いてた『アーン』より破壊力がスゴイんですけど!
どうしよう…心臓が持たないかも。
「食わせるなら、とっとと食わせろ」
シンさんに睨まれるけれど…
は、恥ずかしくてもうできないっ!
思わず目を逸らしてスプーンをシンさんの口元に運ぶと、
「アチッ!ったく!どこ見てんだっ!そこは口じゃない!病人にヤケドさせてどーするっ!」
おそるおそる目を開けてみると、シンさんの頬にオカユがでろーんとこぼれていた。
「うわあ!ご、ごめんなさい〜〜っ!!お怪我はありませんかっ!?」
慌ててタオルでこぼれたオカユをふき取る。
ほんとに、何してるんだろう私!!
「ったく。もういいからそっとしといてくれ…お前がいると間違いなく悪化する」
また睨まれる。
そして寝ころんだまま、くるっと背を向けてしまった。
「ごめんなさい…こんなつもりじゃ…お薬取ってきますね…」
私は部屋を出た。
=数分後
ソウシ先生にもらった風邪薬を持って部屋に戻る。
はぁ〜…。
お役にたちたい気持ちは一杯なのに、何で迷惑ばっかりかけちゃうんだろう。
まだ怒ってるかな…シンさん。
「シンさん、お薬…って、寝てるや」
ちょっとだけ赤い顔のまま、シンさんは穏やかな寝息を立てて眠っていた。
ぐっすりと眠っているその顔をマジマジと見つめる。
ちょっとだけ…観察しても怒られないよね…?
うわぁ…睫毛が長いーーー!
絶対私より長いっ!!
同じ部屋だけど、シンさんの寝顔ってあんまりジッと見たことないんだよね。
いつも私の方が先に眠ってしまって、私の方が後に起きてるし…
起きてるときは、この目がこーんなに吊り上って、拒絶するみたいに「バカか、お前は」って冷たく言い放つんだけど。
寝顔は意外と可愛いなぁ…。
「薬、飲んでもらわないといけないけど起こすのが何だかもったいないなぁ」
漆黒の柔らかそうな髪に触れてみる。
こんなこと、起きてたら絶対できないしっ・・・・ちょっとだけ。
ふふっ、シンさんって少しクセ毛なのを気にしてるんだよね。
羨ましいくらいすごく綺麗な髪なのに。
眼帯、こんな時でも取らないんだ。
この眼帯の下にどんな傷があるんだろう。
こんなに近くにいても触れられないシンさんの過去。
シリウスの皆は知ってるのかな。
シンさんはあまり自分のことを話したがらない人だから。
きっとどんなものを抱えていたとしても、誰にも見せようとしないで一人だけで苦しんで、何とかしようとしてるのかもしれない。
そんなシンさんだからこそ、忠犬でも何でもいいから傍にいたい…
ちょっとでもお役に立ちたいって思うんだよ…。