Novel
□本編 Shinside
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34.熱情
「私で満足してもらえるのかって・・・不安で・・・」
髪をそっと撫でると、少し恥ずかしそうに●●は俯いた。
「お前でいいのかじゃなく、お前がいいんだ」
「・・・・・っ」
俺の言葉に、●●は下を向いたまま頬を染める。
「俺は、お前じゃなきゃダメなんだよ」
追い打ちをかけるようにそう呟くと――
彼女の顔が跳ねるようにあげられ、俺をまっすぐ見つめた。
泣き出しそうな、笑い出しそうな・・・よくわからないクシャクシャの表情に変わる。
「・・・ったく、恥ずかしいこと言わせんな」
俺もどうかしている。
瞳の端に涙を溜めて、彼女はまた力いっぱい俺の首に抱きついてきた。
「大好きっ!!ごめんなさい。もう一回言ってっ!!」
「言うか、バカ」
「シンさん、大好きっ!!!」
子供のように、大好き、ばかりを連呼して。
その華奢な身体からあふれ出す気持ちを、俺に伝えようとしている。
バカ。
そんなに必死にならなくても知ってる・・・。
「ああ。俺もだ」
素直に言葉が零れる。
ひたむきで真っ直ぐな●●の愛情表現は、いつも俺の心の深くて柔らかい部分を揺さぶる。
途端に躰は熱を帯び、触れて確かめたいと願ってしまう。
手を伸ばし指でそっと頬の輪郭をなぞると、ガキだと思っていた筈の女は僅かに色香を滴らせ、俺を無意識に誘惑する。
「お前がその気にさせたんだからな」
禁欲を誓ったばかりだってのに・・・。
この女は・・・。
ゆっくりと顔を近づけ、深いキスを交わす。
強く抱きしめた身体から、激しく波打つ彼女の鼓動が聞こえた。
何度唇を交わしても、何度抱きしめても。
静かに溢れてくる俺の熱情が・・・
止むことはない。
ガタンッ。
「ば、ばか。トワ、ヘマすんじゃねーよ!」
「だって、ハヤテさん。僕、足がつっちゃって・・・」
聞きなれた声が背後から聞こえる。
アイツらは・・・
一度ならず二度までも。
カチャ。
「おい、どっちから撃ち殺されたいんだ?」
銃口を向けた途端、二人は慌てて逃げ出した。
「わー!逃げろっ。シンが本気だっ」
「ハヤテさんっ。置いてかないでくださいよー」
「うっせーっ。こないだはお前がオレを見捨てただろっ」
「あれは鼻血がっ・・・」
騒がしい奴らだ。
「ったく、この船の連中はどうしようもないな」
「でも、好きなんでしょう?」
俺の溜息に、彼女が嬉しそうに笑う。
「まあ、悪くはないだろ」
甲板でハヤテが叫んでいる。
「いつまでもイチャついてないで、さっさと来いよっ!今夜は満月がキレイだぞーっ!」
「ふふっ。はーいっ。行きましょう、シンさん」
彼女が腕を引っ張ってきた。
「ああ」
宝の島は目の前だ。
全てが終われば・・・
俺の禁欲生活も幕を降ろすだろう。
その時は――
思う存分、抱いてやる。
「覚悟してろよ」
甲板へと急ぐ●●の後姿に、俺は小さく呟いた。
「へ?いま、何か言いました?シンさん?」
「何でもねーよ」
ぽんっと頭に手を置くと、●●は満面の笑みを魅せる。
「あ!甲板に戻ったら、ファジーさんに習ったせくしーだんすというものを披露・・・」
「しなくていい!」
「はぁい!今度シンさんだけに見せますね!」
「・・・・そうしておけ。思い切り笑わせるのは俺だけで充分だ」
「えー!なんで笑わせること前提になってるんですか?せくしーだんすなのに」
「本当にセクシーだったら襲ってやる。その覚悟はあるんだろうな?」
「はい!襲ってもらえるように頑張ります!」
「・・・」
無邪気に答える様を見ていると、
邪な自分が穢れた人間に思えてくる。
いや。
好きな女を抱きたいと思うのはべつに男として当然の衝動だ。
むしろ俺は我慢強い方だろう。
襲った俺に何をされるのかコイツが本当に理解してるか疑問に思えてきた。
じっと見ていると目が合う。
「ふふ。シンさん大好きっ!」
チッ。
ったく、これだからコイツは――
・・・・・何でそんなに可愛いんだ。
そう俺は独り小さく呟いて、完全に敗北した気持ちで●●の後に続き甲板へと向かうのだった。