30.寝言
ボスンッ。
「・・・っコイツ・・・」
結局寝つけずに、ベッドにうつぶせになったままオヤジからの手紙を読んでいると・・・。
隣で穏やかに寝息を立てていたはずの女の足が、俺の腰に勢いよく乗っかってくる。
最近はテントや町での宿泊が続き、同室ではなかったから忘れていたが・・・。
コイツの寝相はハンパなかった。ったく。
俺にこんなことをして蜂の巣にならずに生きていられるのも、この女くらいだ。
――そういえばいつの間にか歯軋りは無くなったか・・・?
だが。
「うーーん。シンさぁん〜〜」
寝言は相変わらずだ。
俺の名を呼び・・・。
一体どんな夢を見ているのか。
こういう寝言なら多少赦してやってもいい、なんてゲンキンなことを思ってしまう。
「ううう〜〜ん・・・。あっ。だ、だめっ・・・」
●●の唇から、切なげな声が漏れる。
コイツ・・・・・一体どんな夢を見てるっ?!まさかさっきの続きを・・・・・夢で、なのか?
「んん〜〜っ・・・・」
フン。
やらしい女だ。
このまま起こしてやはり続きをしてやるべきか。
もう一度●●へと手を伸ばす。
俺の身体で燻ったままの火種は、いとも容易く再び燃えあがろうとする。
「おい、●●・・・・」
起こそうとして唇を近づけ――
「・・・ナギさぁん・・・」
思いもよらない呟きに、完全に鎮火される。
・・・・・・・・。
今、コイツ。
ナギの名を嬉しそうに呼ばなかったか?
稀に見るほどの笑顔だったが・・・
パチッ。
突如、●●の瞳が開いた。
俺は、慌てて手元の手紙を見つめる。
目をこすりながら、彼女は俺の手元を覗き込んできた。
「・・・あれ?シンさん、眠れないんですか?それってお父さんの手紙・・・」
「あ、ああ。これだけあるとすぐには読み切れないからな」
カイおじさんが止めていたという俺と母へ宛てた父の手紙。
時間を見つけては、失った時を戻すかのように・・・俺はこの手紙の束に目を通していた。
再び手紙に視線を落とす。
が。
今はそんなことはどうでもいい。
・・・何でナギなんだ・・・?!嬉しそうにナギの名を呼ぶような夢を見てたっていうのか?
今夜の続きを俺ではなくナギ相手で夢を見ていたとしたら・・・。
そう考えただけで、いますぐ無茶苦茶に犯してしまいたいほど苛立ちを覚える。
だがそんなことをすれば、コイツを傷つけ泣かせるだけなのは目に見えている。
最初はなるべく、普通に丁寧に手解くほうがいい。
無茶をして良いのは慣れてからだ。
せっかくここまで我慢してるってのに、そんな無茶をすれば、それこそナギにつけ入る隙をみすみす与えてやるようなものだ。
「何か、手紙に気になることがあるの?」
気づけば俺は、手紙を握りしめていた。
彼女は、その行動を誤解したようだった。
確かに・・・・
この手紙に気になることは多い。
だが今。
最も俺が気になってるのはお前の寝言とあの笑顔だ。
―――しかしここで問いただすのは・・・・・・プライドが許さない。