Novel

□本編 Shinside
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3.恋人

「シン!お前、可愛い恋人が出来たな!」
船長が意味ありげに俺を見てニヤつく。

その言葉に皆が笑った。
好きな場所に座れと言われて何故か俺の隣に座ったコイツは船長の言葉にビクッと身体を反応させる。

船長め…。
俺がコイツに手を出したと思ってるのか。
俺は女なら何でもアリのあんたとは違う。

「こんなちんちくりん、誰が相手にするか。俺はめんどくさい女は嫌いだ」

特に女のガキなんて最悪だ。
うるせーし、すぐ泣くし、歯軋りするし、寝相わりーし。
キスしてやっても全く気づかねーし。

「シンさんはグラマーでセクシーなのが好みだもんね」
トワが無邪気に笑った。

「シンが女を抱くのは遊びだからな。恋人なんて作るわけねーよな。銃が恋人みたいなモンだよな。他のヤツに触らせねーくらい大事にしてるし。せっかく良い学校出たエリートなのに銃オタクなんてもったいねーけど」
「黙れ、ハヤテ」
「怒んなって!シンが恋人作るなんてありえねーって言ってやってんの」
「ぐらまーでせくしーかぁ…」
トワとハヤテの言葉に、アイツはブツブツ呟きながらうつむいたままだった。

まさかショックを受けてるのか?
俺は特別グラマー好きじゃないがコイツがちんちくりんなのは事実だ。
変えられない事実に傷ついてどーする。
だが、コイツが俺以外のヤツの言葉に泣きそうになっているのは何だか面白くない。

「さっきは部屋ですまなかったな」
「部屋?」

眼帯を外して着替えていたら、コイツがたった2回のノックで入ってきやがったから。
裸で抱きしめることになってしまった。
コイツにはだいぶ刺激が強かったに違いない。
幸いにも眼帯を外したところは見られてないようだが。

「…あ!」
思い出したのかみるみる頬が赤くなっていく。
反応がひどくわかりやすい。

「わ、私も、ノックを2回しかしなかったので…これから4回します」
「当たり前だ」
「ふふ」
「何がおかしい?」
「いえ。無事に部屋に置いてもらえるのかなと思ってちょっとだけ安心しました」
「船長命令だからな。仕方なくだ。ただし俺の言いつけは守れ」
「はい!ノックは四回!タダで飯が食えると思うな!ですね!」

…単純なヤツだ。
俺が少し優しさを見せてやっただけで、さっきのトワとハヤテの言葉に落ち込んだのを忘れたのか、もう笑顔になっている。

「あの…シンさんは恋人つくらないんですか?」
「その質問に、答える価値はあるんだろうな」

くだらない質問だ。
不愉快に思った様子を感じ取ったのか彼女は言い訳するように言葉を続ける。

「だ!だって!シンさんってかっこいいしモテそうだし…」
「お前の頭の中は、お花畑か」

今まで知り合った女は、いつも聞いてくる。
恋人はいないのか。
作らないのか。自分はどうだと。

俺には目的がある。
一晩だけの恋人なら満足すればそれでいい。
それ以上を求めたこともないし、
めんどくさいのは必要ない。
ガキだと思ったがコイツもやっぱりそういうくだらない女の一人なのか。

「俺は、そんなモノに興味は無い。愛だの恋だの、くだらないものは信用していない。邪魔するなら女だって容赦しないと言っておいただろう」
これ以上、立ち入るなという警告だ。
俺の言葉の意味をようやく理解したのか、コイツは黙っている。

「…にしても、お前は全く色気がないな」
「そんなこと、言われても…」

フン。
一緒の部屋にいても襲う気にもなれない。

キスはしたが…あれはウルサイ寝言の仕返しでしかない。
そうだ。単なる仕返しだ。

「お前、処女だろ」
俺の言葉に図星といわんばかりに慌てている。
「恋だの愛だのとクダラナイ事に夢見てるガキだな」
「…っわ、私だって、いつか素敵な恋をしたいと思ってるんです!そ、それに…誰かを心から愛して、愛されるって、素敵なことなのに…」

男女の何も知らねー処女が何を言う。
「フン、そんなの、ロマンチックなお嬢ちゃんの夢だな」
吐き捨てるように言ってやると、涙目になったアイツは黙って立ち上がって俺から離れた。


「あーあ。シンが、女泣かしたーー」
アイツが走り去ったあと、ハヤテがからかってくる。
「うるさい」

「僕、様子見てきましょうか?」
「トワ。ほっとけよ。甘やかしても仕方ねーだろ」
ハヤテの言う通りだ。

「シン。彼女を一人にしてもし誤って船から海に落ちたら船長に何て言うんだ?船長は彼女を気に入ってるんだぞ」
ドクターが、にこやかに言う。
この人はいつも人が答えに一番困る質問を笑顔で言う。
「じゃあ俺が…」
ナギが席を立とうとしたから―――
「俺が行く」

結局俺が見に行く事になった。
俺が行くと言った瞬間、ドクターが更に笑顔になったのが腹立たしい。
これじゃあ、まるで俺が最初からアイツを追いかけるつもりだったみたいじゃねーか。



月明かりの下、●●は泣きはらした目で船から身を乗り出している。

あンの!バカ!!
夜の海に落ちたら本当に海の藻くずだ。

「●●!」
思わず名を呼ぶと―――
「今…名前…」
涙目だったコイツは、さらに泣きそうな顔で俺を見る。
「…なんでそこに反応する」

「だって…初めてちゃんと名前呼んでくれたから…」
また、泣きやがる。
「黙れ。泣くな」
俺が低い声で言うと、アイツはびくっと反応して止まった。

「どうせ私は頭の中はお花畑で泣き虫ですよ…でも不安なんだもん。だって、家族だってきっと心配してるし帰りたいのに…」
「俺が言いたかったのはな…」

頭を小突いて、言葉を選ぶ。
何だ。どうして、俺は―――
言葉を選んでいる。
女が泣こうが喚こうが俺にはどうでもよかったはずだ。

どうして、俺は今。
コイツにかける言葉を選んでいるんだ。

これ以上。
その瞳から涙がこぼれないようにと。
なぜ…?

その理由を、無意識に探ろうとした時――
ドーーーーーン
大きな衝撃音がして、船が揺れた。


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