Novel

□本編 Shinside
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29.安堵

「んっ・・・・シンさっ・・ん」

切なげな声で俺の名を呼ぶ。

このまま全て奪い尽くしたい―――










が。



「・・・・・・」

「・・・シンさん?どうしたの・・?」

ふと手を止めた俺を、物憂げに彼女が見上げる。





俺は乱れた彼女の衣服を綺麗に整えてから、立ち上がってドアに向かった。



「えっ。シンさん?どこへ・・・」


ガチャ。




ドアを開けると、ハヤテとトワが倒れこんできた。


「いってえー!シン、急に開けんなって」

ハヤテが地面にぶつけた肩を撫でながら言う。

「・・・・・」

無言でトワを睨みつけてやると、怯えた顔で弁解しようとする。

「ぼ、僕は、ハヤテさんを止めようとしたんですけど・・」

「トワ!裏切んなっ。お前だってしっかり聞き耳立ててただろっ!」



「だってハヤテさんがドアから離れないし、それに・・・あんな声が聞こえたら・・・」

トワが言いかけて言葉に詰まり、赤くなって俯く。

「へえ・・・。あんな声、か。どんな声を聞いていたのか、詳しく説明してもらおうか」




俺の言葉にトワがますます顔を赤くし、ハヤテは開き直る。

「ふん!船の上でやらしーことしてるほうがわりーんだよっ!いっつも、規律がとか言ってンのはシンだろー」

言っておくが、ハヤテが言うようなやらしーことはお前らのせいでまだできていない。








「入れよ」

二人が虚をつかれた顔をした。

ハヤテとトワを部屋の中に残したまま、ドアを閉める。


「そんなに見たいなら、見せてやる」

ベッドに戻り、戸惑った表情の彼女の隣に腰を下ろす。

「へ?し、シンさんっ?!何を言って・・・ひゃっ!」

●●を抱き寄せ、耳たぶをそっと噛む。

「あっ・・・」

ぴちゃりとわざと音を立てて耳を舐めると、●●の肌が一気に粟立つ。

「・・・っ。ちょ・・シン・・さんっ・・ダメですっ!い、いや・・っ」

さっきまで従順だった彼女は、ハヤテとトワが見ている恥ずかしさからか、必死に抵抗し始めた。

「だから・・・お前に抵抗する権利はない」

俺の唇は、耳から首筋に、鎖骨へと降りていき・・・・。




ハ、ハヤテさんっ!僕ダメですっ。無理ですぅ!!もう戻りますからっ」

トワが勢いよく立ちあがって鼻を押さえながら部屋を出ていく。

「おい待てって、トワ!!オレを置いてくなってっ!つーかココに置いてかないでくれーっ!!」

ハヤテも慌てて後を追いかけていった。







「・・・・フン」

最後まで目の前で見る勇気がないなら、最初から覗くな。

ガキ。




二人が出て行った後。

部屋のドアを閉めてから鍵を掛け、まだ火照った●●の体を引き寄せる。

「もしかしてわざと・・・二人が困って逃げちゃうの解ってて・・・・」

「当り前だ。お前のあんな顔をあれ以上見せてやるわけねーだろ」

「あんな・・・顔?」

「そういうソソル顔のことだ」

「・・・っ」



キスをしようと顔を近づけるが、

●●は潤んだ瞳に涙を浮かべ、ガクンとベッド脇にへたり込んだ。

「どうした?力が抜けたのか?」

「だって・・・ほんとにあのままされちゃうのかと思って怖かっ・・きんちょうしてて・・・。ずっといっぱいいっぱいで・・・あああああ〜!!ううわ〜〜んっ!!!」

●●は子供のように突然泣きじゃくる。

「悪かったな」

思わず頭を撫でる。

無茶をしてしまったようだ。


すぐに目の前から消えてしまうコイツを閉じ込めようと、俺は焦っていた。



このまま・・・今夜。

こんなに涙を流しているコイツを

無理に抱いてしまっていいのか・・・?


頭を撫でて●●を落着かせていると、徐々に俺自身の昂ぶりもおさまってくる。


少しずつ。

慣らしてやると言ったところだ。



「・・・・・・今夜は仕置きはやめた」

「えっ。」


俺が体を離すと、安堵の混じった切なげな表情で彼女は驚いた。

「また覗かれたら、うっとおしいからな。お前への仕置きは、今度たっぷりしてやる」

「延期・・・ってことですか?」

「ぶっ。延期って何だよ。残念そーだな」

まだ嗚咽が止まらないのか、喉を震わせながら、●●が答える。

「は、はい。ヒック。わ、わたしはだいじょうぶですから、ヒック・・・すぐおさまるから・・」



「ほら。こーしてやるから落着けよ」

彼女を抱き締めて、横になる。

背中をそっと撫でると大きな息を吐きだして、●●は瞳を閉じた。

「シンさん・・・ごめんなさい」

「何で謝るんだ?」

「なんとなく・・・」

鼻をつまんでやる。

「いたたっ」

「フン、おもしれー顔。いいから寝ろよ。眠らねーと海の藻くずにするぞ」

「ふふっ・・・それ、懐かしいです・・・」

疲れのせいなのか、緊張が解けて安心したのか。

腕の中の彼女は、嬉しそうに微笑んで、それからすぐに穏やかな寝息をたてはじめた。




しばらくして――

「・・・わたしじゃ・・まんぞく・・できな」

●●が、小さな寝言を呟いた。

何だ、その寝言は。




その寝顔にそっと口づける。

「バカか、お前は。逆だ」

唇に鎖骨、そして胸へと順にキスを落とすと、身体じゅうに温かいものが流れ込んでくる。


この部屋で、寝ているコイツのファーストキスを奪ったあの日。

たかがキスだと思っていた。



だが今の俺は・・・

その『たかがキス』だけにこんなにも満たされている。

こんなふうに女を愛する事が出来る夜もあるのだと、俺は生まれて初めて知った。

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