Novel
□本編 Shinside
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26.誘拐
「ハヤテ。トワ。●●を見なかったか?」
「はぁ?知らねーけど。どーせどっかでファジーと涼んでんじゃねえの?」
「湖には来ませんでしたね。テントにもいないんですか?」
「ああ。いない」
戻りが遅いからテントに様子を見に行ったが、ファジーもアイツも居なかった。
このあたりはジャングルしかない。
一体どこに行くっていうんだ?
「どうしたんだい?シン。何かあったのか?」
ドクターと船長が合流し、俺を見たドクターが心配そうに声をかけてきた。
「何だ?恋人を捜してるのか?シン」
「船長。行き先を知りませんか?」
「さぁな。女は色々あるんだろう。心配しすぎるな。しかしシンが女の心配なんて、やっぱり同室にして正解だったな!ついに愛を知ったか!」
船長がからかうように笑う。
「恋人?シンさん、恋人って何ですか?!」
トワが聞きたくてたまらないといった表情で詰め寄ってきた。
「ウチには女二人しかいねーから・・・どっちかの女・・・。まさかファ・・・」
「撃ち抜かれたいのか?ハヤテ」
俺が銃をチラつかせると、
「じ、冗談だって。なんだよっ!やっぱりシンとあのちんちくりん、デキてたのかっ?!」
「おうハヤテ!先越されちまったな!ふくよかな女とは進展してねえのか?」
船長がハヤテをからかう。
「げ!マジやめてくださいよ船長!何で俺があんなブタと!・・・って、シン。興味ねえって言ってたのに何があったんだよ」
「そりゃ決まってんだろ。いやぁ〜、シンを落とすとは●●め。さてはアッチが相当・・・」
船長の下世話な付け足しに、ハヤテが顔を赤らめる。
この俺が、ハヤテが顔を赤らめるような事や船長がニヤつくような事はまだ何もしてない・・・とはあえて言わないでおく。
トワも、さらに突っ込んで聞いてきた。
「こないだ妹みたいって言ってたのに、●●さん、すごいなぁ・・・シンさんを落とすなんて」
「しっかし、あのシンが恋人作るなんて、あのちんちくりん侮れねーよな。人間なんでもやりゃあ出来るもんなんだな!」
ハヤテが頷く。
・・・・・・何なんだ、一体。
「●●ちゃんはとても魅力的な女性だと思うよ。私はシンがうらやましいけどね」
ドクターが口を出す。
単純なアイツが聞けば照れて喜びそうな言葉だ。
やはりドクターは一番油断できない。
「男と女の仲なんていつどこで、変化するかわからねえモンだ!特に女の気持ちってのはな・・・」
船長が遠い目になる。
「船長・・・。何かあったんすか?」
ドクターがハヤテの肩に手を置いた。
「ハヤテ。あんまり突っ込まないほうがいいよ」
「それより今夜は歓楽街でパーッと宴だな。シンとちんちくりんが恋仲になったと皆にバレた記念だ!」
「船長。また飲みたいだけっすよね・・」
ったく、何の記念だ・・・。
バレたっつーか、船長がバラしたんだろ。
同じ船にいて●●の顔が緩みっぱなしな以上、仕方のねーことだが。
・・・これだからこいつら、特にハヤテやトワにバレたくなかったんだ。
からかうネタと隙を与えることになる。
ドクターやナギ、船長に対してはマーキングが必要だが・・・。
「船長。ジャングルの中にこんなものが落ちてた」
ジャングルに出ていたナギが、手にハンカチを持って戻ってきた。
ファジーのハンカチだ。
口紅で、<ベガ>と書かれてある。
ベガ・・・・?
「有名ストリップ小屋じゃないか」
「船長・・・。何で知ってるんすか」
「ハヤテ。だからそこは聞かない方がいいよ」
ソウシさんが笑顔でフォローする。
ストリップ・・・小屋だと?
まさかそこにアイツが・・・・・?!
「ファジーが一緒だから、二人とも無事でいるといいんだが・・・」
「大丈夫っすよソウシさん。あいつ、象をも素手で倒す女だし」
「だが、大事な仲間が連れ去られたとなると、すぐに有名ストリップ小屋に助けに向かわねばなっ!」
気のせいか嬉しげな船長を横目に、俺は銃を取り出す。
「シン」
ナギが何か言いたげに俺を見る。
「この辺りの山賊は女の人身売買で稼いでいる輩もいる。最近は組織化もしてるらしい」
「そんなことだろうと思った。アイツとファジーを攫うなんて不運な奴らだ」
俺の言葉にナギが頷いた。
「ああ。シリウスの宝を盗むなんてな」
「そうだな。しかも俺の女だ」
そう言うと、ナギはいつもの仏頂面になる。
「言ってくれる」
当然だ。
俺の女を攫った奴らに、死ぬほど後悔させてやる。