Novel
□本編 Shinside
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25.未練
船長のわがま・・・いや、命令によって俺達はポポ島の歓楽街に向かうことになった。
一応、物資補給が名目だ。
歓楽街への道中、湖で涼をとることになり、ハヤテとトワは呑気にはしゃいでいた。
ったく、遠足じゃねーんだぞ・・・
船長とドクターものんびりと水に浸かっているようだ。
寄り道になることに気は進まないが、ドクロ島へ入ってしまえば何が起こるか分からない。
緊張の緩和もある程度必要か・・・
「シン。ちょっといいか」
上着を脱いでいるとナギが俺を呼び止めた。
「お前に呼ばれる場合、大体どんな内容か想像がつくな」
「なら、話が早い」
俺たちは、湖から少し離れた木陰に移動する。
「俺はついさっき、●●に惚れたって言った」
その言葉は、一瞬で俺を苛立たせた。
「へえ・・・。そりゃあよかったな」
「そんなにイラつくなよ。・・・ま、仕方ねーか。けど、俺の言葉に●●の反応はなかった」
当たり前だ。
アイツはもう、俺のモノだ。
他の男に反応したら調教し直してやる。
「シン・・・●●を受け入れたんだな」
「・・・聞いたのか?」
「いや。●●を見ていればわかる」
「アイツに顔の緩みをどうにかしろって言っておくべきだったな」
「あんなに幸せそうな顔してるんだから、ハヤテ以外はすぐ気付くだろ」
・・・・だろうな。
「可愛いもんだ」
ナギが呟く。
「お前がそんなことを言うタイプだとは思えなかったな」
少し嫌味を言ってやると、
「ああ。俺もシンがアイツを受け入れると思わなかった。いや、受け入れなければ・・・なんて少しは考えていた」
ナギは本音を話し続けている。
ひどく珍しい状況だった。
思わず俺も応えるように漏らしてしまう。
「どうやら俺は我慢の限界だったらしい。お前とロイのせいで火が付いたのかもな」
ナギはふっと笑った。
「●●に、シンのどこが好きなんだって聞いた」
「・・・・・・・」
「アイツが何て答えたか、聞きたいか?」
「別に。想像はつく」
「どこだなんてわからないくらい理屈じゃなく、体中の細胞が好きだと叫ぶらしい。・・・想像通りの答えか?」
「フン」
「シン。嬉しいときは素直に顔に出した方がいいんじゃないか」
「無愛想なお前に言われたくないな」
ナギが呆れたように微笑み、俺も口元が緩んだ。
「モルドーに着く直前、海軍はわざと俺達の船をよけたよな」
他のメンバーはツイていた、と言ってたが、ナギの目は誤魔化せなかったらしい。
「・・・ああ、そうだな」
「あれはお前の父親が、シリウスの船に息子が乗ってると知ってたからだな」
その言葉に、俺は返事をしなかった。
返事が無い事を、ナギは肯定した、と解釈したようだった。
「シン。お前はもう、父親への憎しみはないんだな」
「・・・・無い。俺はずっと、誤解をしていた」
随分戸惑ったが、今ではオヤジのことも少しずつ俺の中で受け入れられている。
●●が傍にいたことが、大きい。
「そうか。じゃあシリウスを降りて、アイツを幸せにしてやってくれ」
ナギはそれだけ言うと、湖の方へ引き返して行った。
シリウスを降りて、か・・・。
それは海賊をやめるという事を表す。
オヤジへの誤解が解けた今。
俺が海賊でいる目的は無くなった。
彼女を海賊の世界に引きずり込むことをためらい、俺は自分の気持ちをずっと拒んできた。
俺がシリウスを降りれば、彼女の事も、オヤジの事も、全ての問題が取り除かれるように思えた。
どこかの街で、どこかの家を買い、日々を穏やかに●●と過ごす。
嵐にあうことも、戦闘もなく、危険から●●を遠ざけることが出来る。
航海をしなくても金を稼ぐ方法は幾らでもあるし、ウルの力になることも出来るだろう。
それも悪い選択肢じゃないが――
だが・・・・俺は。
俺は何をためらっている?
この船に、シリウスに・・・海賊に。
何の未練があるというんだ・・・・?
ふと視線を上げると、草陰に女二人がうずくまってヒソヒソと話していた。
あいつら・・・・。
どこまでバカなんだ。
隠れてるつもりかもしれねーが、ファジーなんて図体でけーから完全に見えてんだよっ。
「・・・お前ら。ずっとそこにいたのか」
目の前まで行くと、彼女は怯えた顔をして縮こまった。
「ご、ごめんなさいっ!」
「素直に謝ったら許されると思ってるのか」
睨んでやると、ますます怯えた顔をする。
「シリウス海賊団の掟では、盗み聞きの罪は、裸で島を一周だ」
「シン様!アタイがそそのかしたから、アタイが裸になるよっ!」
彼女を虐めて楽しんでいると、ファジーが服を脱ごうとする。
「脱ぐな。冗談に決まってるだろ、バカ。人の話に聞き耳立てる前に、ノータリンな頭を何とかして来い」
「ほんとにごめんなさい!」
座り込んでいた彼女が、再び謝ろうとして急に立ちあがった。
・・・・ッバカ!こいつ・・・・。
この格好でウロついてたのかっ?!
「お前、服が透けてんだよ。いーからさっさと着替えて来い」
「は、はいっ!着替えてきますっ」
彼女は少しだけ嬉しそうな顔をして、ファジーと一緒に勢いよく戻って行った。
この時。
テントに戻る彼女に俺はついていくべきだった。
●●とファジーはこの直後、姿を消した。