Novel

□本編 Shinside
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18.意味

「母さんの故郷は私が守る。お前は信じた道を行け」

シリウス号の上で夕日を眺めながら、オヤジの言葉を思い出す。
いつのまにか●●が隣に立っていた。


「やっぱり、眼帯つけちゃうんですね」
「ああ。こっちの方が慣れてる。むしろこれが無いと微妙な遠近感がつかめないからな」
彼女は少し微笑む。
「俺は…今まで何のために生きてきたんだろうな」

オフクロが死んでから、復讐のために海賊になった。
憑りつかれたように真っ暗な中を一人歩き続けているような…心に穴が開いたような何もかもが零れ落ちていく日々だった。
復讐を果たそうとしていた相手は、実は誰よりも自分を、母を想ってくれていた人だと知らされた。

自分のバカさ加減に、言葉も出ねー

今までの俺の人生に、何の意味があったっていうんだ…


「今までは変えられないけど、これからどう生きるかは変えられますよね!?」
「これから、か」
「はいっ!今日今から…この瞬間からが、シンさんが信じる道ですっ」

「オヤジが役人として国を変えるなら、俺は国を豊かにしたい」
「うーん。それって、お宝を探し当ててみんなにあげるってことですか?」
「まあ、そういうことになるな」

●●は、じっと俺の顔を見つめる。
人助けなんて、ガラじゃねーのはわかってる。

ったく、笑いたいなら笑えよ…
フン、と横を向いた瞬間。


「お前…何してる」
●●が俺の首に腕を回して抱きついてきた。
軽く腕を引き離そうとしたが、しっかりと回された腕が俺から離れない。
ふわりと●●の香りが鼻腔をくすぐる。
それは俺を甘く安らかな気分にさせる。

「絶対に、でっかいお宝げっとしましょうね!シンさんっ!」
「ぷッ。お前、それウチの団歌じゃねーか」

ほんとに、こいつは…


くしゃ。

髪を撫でて、指を通す。
この船に来た時より少し、水分が抜けて。
海の女の髪になってきた。

「…シンさん?」

突然髪を撫でられ、顔を赤らめ戸惑う●●が目の前にいる。

悪くない。
…生きる意味、か。


「ふふん。お前がこの船に来てから、変な事ばっかり起きるな」
俺にとってありえねーくらい濃い時間が、毎日過ぎていく。

コイツがこうして、これからも俺の目の前にいたら…
これからの人生が意味あるものに変わっていくような予感がする。

だが、ここにいるかを決めるのは彼女自身だ。


「でもいいのか?このまま旅を続けて。俺たちは海賊なんだぞ」
「だって!一般人に手を出さないし!助けてくれるし!お宝だって他の海賊からだし!迷惑かけてないっていうかつまり…う゛っ!いだッ!」
「どうした?」
「し、したはみましたーー」
「ったく。必死でしゃべるから舌噛むんだよ。ほら、べーってしてみろ」
「べー」
彼女が素直に舌を出す。

目の前で舌を出している女は、さっきまでは神々しいほどの輝きを放っていた女と、同じ人物とは思えない。

だから、飽きない。

だから…俺はコイツを…




「ああー!き、キスしてるー!!」
「バカ!トワ!聞こえるぜ」

…いつものバカツートップか。

睨んでやると、ハヤテが悪戯を見つけられたガキみたいにバツが悪そうな顔で言う。

「シン!お前が言ってたんだろー!船に恋愛沙汰を持ち込むなってさ」
「そんなんじゃねーよ」
「何言ってんだよ。こないだだって部屋で抱き合ってたくせに」
「だから、そんなんじゃねーって言ってるだろ」
「じゃあ、なんだよ?」

ハヤテとトワ。
そして彼女の視線が、一斉に俺に注がれた。

「さーな…妹みたいなもんだろ」

前にコイツだって俺を兄貴って言ってたんだから、今はそうだろ。


ハヤテは俺の言葉に不服そうな顔をした。
鈍感が服着て歩いているようなハヤテに、まさか俺の感情を読まれているとしたら、最悪だ。

トワは、沈黙を破るように慌てて言葉を続ける。
「あっ、船長が今夜は●●さんの初処刑体験脱出の祝いの宴会だって言ってましたよ!」
「そうそう!食材も確保したし!今夜はナギ兄特製の料理が楽しみだな!」
「●●さん、早く準備しましょう!」
トワが笑顔で話しかけるが、

彼女は―――
「うん…」
小さく返事をして、俺に背を向けた。





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