Novel

□本編 Shinside
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14.過去


俺たち海賊♪陽気な海賊♪

飲めや歌えや朝までYO〜HO〜

でっかいお宝ゲットだぜ♪


「シン〜〜!!お前も歌えって!お宝ゲットだぜ♪」

ハヤテ。
こいつは酔うといつもコレだ。

「そんなくだらねー歌、歌えるか」
「そんなこと言っていつも歌わねーだろー!あっ!もしかして…!」
ハヤテが勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「シン、オンチなんだろーー!( ´艸`)」

ったく、ガキか?
こいつは。

俺がハヤテを睨みつけると、●●が気を使ったのか、
「わたし!うたいまーすっ!!」
手を上げて歌いだす。
しかも、みんなで肩を組んで歌いだしやがった。


どいつもこいつも。
明日の朝にはモルドーだっていうのに呑気なもんだ。

…まぁ。
こいつらは帝国を怖れたり、捕まるようなヘマはしない。
多額の懸賞金を掛けられながらも自由に好きな場所へ旅をする。
シリウスはそういう海賊団だ。

俺はモルドーの何に戸惑っているのか。
随分昔に心を決めたはずだ。
あの男に再会する時が思ったより早く来ただけのことだ。

少し前の俺なら、ためらいはしなかっただろう。
目的に近づけたと喜んでいたはずだ。

だが、俺は今。
まだあの男に会うつもりはなかった。

もう少しこの船で、この時間を…
彼女が船を降りるまでの時間を――




「モルドー海軍だ!」
ナギの声でみんなが一斉に海を見つめる。
海軍の旗を靡かせた巨大な船がこっちに向かっていた。
そう、モルドーの町で会うとは限らない。
こうやって海の上で再会するかもしれない。

しかし船は直前で急に向きを変えた。
「進路を変えたな」
思わずつぶやく。

「よかったですね!気づかれなくて」
「オレたち超ツイてるな!」
トワとハヤテが無邪気に喜ぶのをよそに、ナギだけは不審がる。
「いや…あれはわざと回避したように見えないか?」

回避。
そうだ。
あれは俺達に気付いていながら、わざと進路を変えた。

俺が此処にいるのは分かっているはずだ。
アイツもまだ、俺に会う気はないということなのか?

だがあの船はおそらくモルドーを目指している。
行先は同じだ。
ならば出会うのは、モルドー帝国。







一人になろうと船の端に向かっていると――
「おい。何をコソコソついてきてる」
わざとらしすぎる尾行で、●●が俺の後ろをついてきていた。

「す、すみません。だってね、船の上で一人になるなってシンさんが言ったんですよ?」
彼女は黙って俺の横に並んだ。
俺の視線の先はモルドー帝国があった。
無言のまま、二人でしばらく眺める。

「…何も聞かないのか?」
俺の質問に、彼女は黙って俺を見つめた。
その澄んだ瞳は、俺が誰にも晒せなかった過去を吐き出させる。
「…」

「ガキの頃、丘のうえから毎日海を見ていた。遠くへ行きたい、広い世界を見たいってな」
彼女は黙ったままだ。

「でも、身体の弱いオフクロを置いていけなかった」
「お母さん、身体弱かったんですか?」
「俺が17の時に死んだ」
彼女の肩が小さく震えた。

俺のわずかに震えた声に反応したのかもしれない。
母が亡くなったことはもう整理がついていた。
物心ついた頃から、いつ消えるともわからないと覚悟していた命だった。

だが――

いつまでも帰ってくることのない父を待ち続けている母の姿を見ているのは苦しかった。
俺はあらゆる手段で母の為にと連絡を取ろうとしたが、ついにアイツからは一度も返事がないまま、母は逝った。
「オヤジはオフクロを見捨てた。自分の人生に夢中で家族を顧みる事はなかった。臨終のときも、アイツは傍にいなかった」

震えた声のまま、俺は言葉を続ける。

「俺はお前とは違う。アイツを絶対に許さない。いつかオヤジに復讐してやる。その憎しみが俺をここまで運んできたんだ」

彼女の手がぎゅっと俺の手を握る。
その手はあたたかく、俺の心を包み込む。

「お前、普段はうるせーくせに、こういう時は静かなんだな」
彼女の手を握り返して。

「今まで俺の周りにいた女は、ちょっと親しくなったら聞いてくる。家族、生い立ち、この眼帯の下の傷の事もな。なのに、つくづく変な女だな、お前」
そんな変な女だからこそ、俺は彼女を傍に置きたいと思っているんだろう。

「だって、大事なことは知ってるから」
「大事なこと?」
「はい。シンさんが優しい人だってこと。そして深く何かに傷ついてるってこと」

次の瞬間。
俺の腕はためらいもなく、彼女の小さな身体を抱きしめた。

「お前の身体は、あったかいな」
どうしてコイツの存在は、いつもこんなに俺をあたためるんだ。

「この季節のモルドーは冷えるから…少し、こうしてていいか」
抱きしめた腕に力を込める。

俺の中に長年渦巻いている獰猛な影は、こうしているだけで息をひそめる。
このまま溶けてしまえばいい。
そう願ってしまうほどだった。

この腕を、離したくない。
だがこの温もりが永遠でないことはわかっている。


だから―――
明日になれば、モルドーで。
俺は復讐を遂げる。



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