Novel

□本編 Shinside
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47.幸福

「でもいいのか?宝を山分けにして。あれは本来、お前が継ぐべき宝だ」

ドクロ島にあったのは、ウルの財宝。

そして俺は、ただ一人のウルの王族の血を遺す者だ。

船長の気遣いは嬉しい。

だが…

「みんながいなければ、あの島に辿り着くこともなかった。あれは俺の宝じゃなく、みんなの宝です」

「そうか」

船長は少しだけ驚いた顔をした後、満足げに微笑んだ。

何故かその表情に、父の顔が重なる。






俺はやっと物語のつづきを思い出した。

王と王妃が自害して果てた頃、船で島を出た、希望を託された――ウル王族の幼き兄妹。

そして二人を守り抜いた一人の従者の物語。

彼らはモルドーに追われ、共に安息の地を求めて旅を続け、いかなる時も支え合って絶望的な状況を切り抜けようとは互いを信じあっていた。

兄の方は旅の途中で命果てるが、命を預け合えるほどの強い絆を結びながら、天命が彼らを分かつまで従者と友情を育んだ。


ウルとモルドーの血に悩まされ、心底信頼できる人間を作らなかった俺は、幼心に彼らの絆にささやかな憧れを抱いていたように思う。

妹の方は大人に成長したのち、ずっと側で自分を守ってくれた従者と結ばれた。


人を愛することを説いた物語のところで、母は俺に言った。

『あなたの側にいる人の大切さに気付いて。そして精一杯愛することを貫いて』と。

幼い俺は意味がわからなかったが、そう話す母の瞳が潤み、きっと父を想っているのだろうと子供心に感じた。

王族の血は脈々と繋がれ、無人島に眠る真の宝に、いつか我が子が導かれるようにと――子守唄と物語が継承され続けた。

おそらくこれが母の、そして俺の・・・

ウルのルーツだったのだろう。



毎夜オフクロに聞かされた物語は、スリルと希望と夢に溢れていた。

大きくなったら、物語の主人公達のような冒険がしたいと俺は心をときめかせていたはずだった。

―――だからこれだけは言える。

俺が海賊という選択をしたのは必然だった。

今の俺は、あの頃夢見ていたものを沢山持っている。

その幸福に改めて気づかされていた。






「それじゃあ皆!帆を張れ!!」

声高らかに船長が叫ぶ。

「行先はどこですか」

トワが笑顔で確認をとった。

「行先はモルドー。シンのもう一つの故郷だ」



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