Novel

□本編 Shinside
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46.接吻


島が目の前で沈んでいく。

俺の祖先が繁栄を極め、戦い、守り抜いた・・・ウルの故郷。

船に戻った誰もが、海に消えていく島をただじっと見つめたまま黙り込んでいた。


ドクターが沈黙を破って、ぽつりとつぶやく。

「ウラルは海底深くに眠ることになる。あれは・・・地球の未来を変えたかもしれないな」


俺の手を、そっと小さな温かい手が包み込んだ。

「・・・島が沈んじゃってさびしい?」

ためらいがちに俺を見上げるその瞳に。

「いや・・・俺はそれでよかったと思ってるよ」

俺はそれだけを、答えた。


オフクロから聞かされた物語の結末がどうなったのか。

俺は必死に思い出そうとしていた。

ウルの王族に引き継がれた、ウラルの物語。

幼い頃、何度も何度も聞いたはずなのに肝心のところがぼやけている。

王族を逃がした勇者は生き残ったのか。

王族の宝――ウラルへ導くカギを託された子孫はどうなった・・・?


「おい!何でてめーらがウチの船に乗ってるんだよ!」

ハヤテの怒鳴り声で、巡り始めた思考が止められる。


「仕方ないだろうが!オレたちの船は反対側に止めてるんだよ!早く船まで送れ!ボサボサすんな!」

「何だと?えらそーにすんな!!!」

ハヤテとロイが言い争いを始め、船長が仲裁に入っていた。

「まあまあ、ハヤテ。ロイには貸しができたしな」


そうだ。

ナギを助けられたのは、ロイ達が居たからだということは事実だ。

しつこくシリウスに関わろうとするロイに、今回ばかりは感謝してやってもいいかもしれないな。

「そーだ!リュウガ!ついでにお宝を山分けしようぜ!」

「調子にのるな」

ポカッ。

「いってぇ!」

喜色を浮かべて声を上げたロイを、船長が小突く。

「ふん。お前は昔からケチだったよ。だから大嫌いなのさ」

船長とロイにどんな過去があったのかは知らないが、古い付き合いだときいている。

ロイのようなバカに四六時中絡まれ続けるのは、ひどく労力を要したに違いない。


「じゃーせめて、その女だけでも・・・」

ロイの手が、突然彼女の腕を引っ張った。



「誰に断って俺の女に触ってんだ」

――バカと関わらないように、と思って黙っていたが。

●●のことになると、別だ。

俺は彼女の腕を引っ張り、ロイから奪い返した。

「俺の女だと??真珠ちゃん!おい、お前はオレの女じゃなかったのか」

ロイが●●に詰め寄った。

「そんなわけないじゃないですか!」

・・・どこまで御目出度いヤツだ。



「オレの気持ちを弄んだのかーっ?!」

「もてあそんでません!私は最初からシンさんがっ・・・あ、あの、そのっ」

「俺が何だ?言ってやれ」

「だから私はシンさんを・・・」

●●は、皆が注目するなか顔を赤くして必死に答えようとする。

「好・・・」

いい機会だ。

やはり思い知らせてやらねーと・・・・

●●が言い切る前に、俺は●●を抱き寄せ、

「あんたには、コイツを満足させられねーよ」

その顎を持ち上げ。

全員が見ている前で、その唇にキスをする。



「・・んんッ」

戸惑った表情を見せた●●だったが、長いキスに瞳を閉じ、次第に身を委ね始める。

誰もがあっけにとられた顔で、俺と彼女を見つめ――

「はっはっは!」

船長の笑い声に、俺はようやく唇を離した。

「いいぞいいぞ!せいぜい子作りに励め!」

ポンッと船長に肩を叩かれた。



子作り・・・。

●●はその言葉に、今にも倒れそうなほど慌てる。

ハヤテとトワもタコのように真っ赤になって放心状態で俺達を見ていた。

「お前は、唯一ウルの王族の血を残す者だからな!」

続けられた船長の言葉に――

ドクターが微笑んで力強く頷いてくれた。


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