Novel

□本編 Shinside
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38.牽制

翌日。


「床に身体を打ち付けた時に、胸を深く切ったうえに肩を脱臼しているな」

ナギの傷は思った以上に深く、ドクターが厳しい表情になる。

「痛み止めも足りないし、船の上では十分な治療が出来ない。感染症も気になるしね」

「今からポポ島に戻って、病院に連れて行きますか?」

ドクターの判断を待つ。



だがドクターが口を開く前に、ナギが苦しげに声を上げた。


「何言ってるんだ。ドクロ島は目の前だろ」

「・・・・」

「シン、お前には目的があるんだろう」


今の俺の目的・・・。

宝を待ってる人々がいる。


そして俺は・・・
復讐だけのために海賊になった過去から。

今度こそ完全に抜け出して生まれ変わると、誓った。


「ああ。俺は絶対に宝を持って帰る」

「だったら、その目的を果たせよ」

ナギの瞳が、俺の目をまっすぐに見つめた。


眼帯で隠した、燃えるように赤い俺の右目も・・・・ナギにはくっきりと見えているに違いない。


「・・・俺は海賊としてしか生きられない。でも、お前らは違う」

ナギは俺の後ろにいた彼女に視線をやった。

そして痛みに耐えながら、言葉を吐き出した。

「だから宝を見つけて、お前らは新しい人生を踏み出すんだ」





ガチャ。

「みなさん。お昼ごはんの用意ができましたよ〜」

ナギへと返す言葉に迷っていると、

トワが呼びにきて、ドクターはすぐ行くよ、と短く答えた。




「●●」

ナギが彼女を呼び止める。

「ちょっとお前に話があるんだ」

「話・・・ですか?」



「それじゃ、私たちは先に行くよ」

ドクターが俺の肩に手を置いた。


ナギと●●を二人にするのは少し抵抗があったが、

ナギの傷が思う以上に深いなら・・・。

彼女の持つ温かい空気が今、ナギには必要なのかもしれない。

俺は静かに部屋を出た。











数分後、●●は食堂にやってきた。

その首元には、見慣れたナギのバンダナが巻かれていた。

●●の表情は、心なしか少し明るくなっている。

それが俺を安心させ、不機嫌にもさせた。




「おまえ、首元・・・・」

俺がつぶやくと、彼女ははっとした表情でバンダナに手をやる。

「な、ナギさんが・・・あ、アザみたいのが出来てるって・・・・隠せって・・・」


当たり前だ。

俺はこの船全員の男が気付くように、ワザとつけたんだからな。

ハヤテのような鈍感な奴は全く気付いてないかもしれないが。

俺が牽制したい相手は、アイツのようなガキじゃない。



「へえ。それでナギのバンダナを巻いてるわけか」

俺の声に多少の不機嫌さが混じっていることに気付いたのか、彼女が身を強張らせた。


「ナギさんが・・・これを形見にしてくれって冗談を・・・」

「バカか。アイツはそんなに簡単にくたばるようなヤツじゃねーよ」

「あっ・・・」

「何だ」

「その言い方・・・ナギさんにさっき言われたこと似てたので・・・」

フン。



「はっはっは。どうした?シン。不機嫌だな。痴話ゲンカか?」

船長が突然、会話に入ってきた。



「・・・何でもないですよ。メシが美味くないからじゃないですか」

「ンだよっ、シン。俺だって一生懸命作ったんだぞ?!…そりゃあ、ナギ兄に比べたらちょっとは腕は落ちるかもしんねーけど・・・」

ハヤテが拗ねたようにつぶやく。



「ちょっと?食えるモノは、このサラダとスープくらいだな」

「あ、それ、ボクがつくりましたっ」

「トワ!また裏切るのかっ?」

「裏切るって・・・ハヤテさん・・・肉の味付けしかしてないじゃないですか・・・しかもすごく辛いし」

「うるせー。ちょっと手が滑って塩と香辛料いれすぎたんだよっ」

「・・・・肉が多すぎるんだよ。こんなペースで調理すればすぐに底をつく。塩も貴重な材料だ。食糧を使いすぎるとドクロ島から戻るまで持たないのがわからねーのか」

「ぐっ・・・るせーよ。肉はチカラになるだろ?ドクロ島で戦うためにも食っとかねーといけねーんだよっ」




「まぁまぁ。シンもハヤテも揉めるんじゃない。ハヤテ、ナギが戻るまで大変だろうけど、トワと工夫して食糧を調整してくれ。シンも協力しなさい」

俺は、ドクターの一言に仕方なく頷いた。


「あの・・・っ。私も、ナギさんの分まで頑張りますっ!何でも言ってください」

黙っていた彼女が、声を上げた。

「ということらしいが、シン。それでいいか?」

船長がニヤニヤと俺を見る。


「・・・・・何で俺に聞くんですか」

「はっはっは!俺をけん制しようとマーキングするほど、お前はその女に夢中のようだからなっ!」

船長は愉快そうに、大声で笑った。

彼女は、ゆでダコのように赤くなってうつむいている。


「フン。ただ、自分の所有物に名前を書いただけです」

「そりゃいい。人のモノほど奪いたくなるのが、海賊ってヤツだ」

チッ、このひとは・・・・。

冗談とも本気とも取れる発言に、俺は呆れた顔を返したが、船長は急に真剣な表情になった。



「・・・いよいよドクロ島だな。ナギも深手を負ってる今、全員が協力して宝を見つけるぞ。いいなっ」

船長の声に、全員が勢いよく返事をする。


ドクロ島はもう、眼前だ。


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