Novel
□本編 Shinside
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45.財宝
「すげー!!こんだけありゃ国が丸ごと買えるぜ!」
地下室いっぱいに詰め込まれたまばゆい財宝に、ウルサイぐらいハヤテがはしゃいでいる。
「よし!お前ら袋にありったけの財宝を詰めろ」
船長の合図で、トワとハヤテは勢いよく財宝を袋に詰めていくが――
俺はその様子を黙って見つめていた。
いつしかドクターが隣に立っていて、俺の肩に手を置いた。
「シン・・・お前の複雑な気持ちはわかる。俺たちはウルの宝を持ち出そうとしているんだから」
今のこの感情を何と表現すればいいのか、わからない。
「だがこれがあれば、ウルの人たちを救えるだろう。ウルが遺した宝によってウルの人たちは救われるんだ」
この宝が、持ち出されることが悔しいわけじゃない。
ただ、自分の中で欠けていたピースが突然見つかってしまったことが俺を戸惑わせていた。
「ちぇっ。宝を横取りして、真珠ちゃんとウハウハ生活だったのになぁー」
ロイのカンに障る言葉が、俺を現実に引き戻す。
「お前にやる宝はない。ついでに気安くアイツを呼ぶな」
「別にいいだろ!ケチ!ムッツリ眼帯!」
「手だけじゃなく口も塞いで欲しいようだな?ヘボ船長」
「ふんっ。シリウスの連中はケチなうえに教育がなってないぞ!リュウガ」
「塞いだだけでは不十分だな。やはり永遠に口がきけないようにした方がいいんじゃないですか?船長」
「がっはっは。シン、ロイの戯言くらい放っておけ」
「あれ・・・・?船長!あれは何ですか?」
ふと、トワが指さした奥の台座には、青い大きな石が鎮座していた。
「ん?ネックレスと同じ石のようだな。シン、台座に何か書いてあるのか?」
俺は台座に近づいて、そこに書かれた文字を読み上げた。
「・・・<ウラルを正しく使う者には繁栄が訪れる。誤って使う者には滅亡が訪れる>と」
「ふーん。ウラルってその青い石の名前なのか?」
ハヤテは財宝をまだ袋に詰めながら、顔だけこちらに向けた。
「そういえば古文書で読んだことがあるな。大昔ウルには天然の鉱物資源があったって」
ドクターの言葉は続いた。
「おそらくウルはその資源をもとに繁栄したんだ。だが、モルドーが兵器に悪用しようとウルに侵攻した。」
「侵略の本当の目的はその石か」
船長が呟いた。
「ウルの高い文明を手に入れたかったのかもね。実際ウルを支配下にしてからのモルドーの繁栄は飛ぶ鳥を落とす勢いだ」
「確かにキレーな石だけど、それが国を滅ぼすほどの力をもってるのかよ。それにスゲー兵器になるっつーんならウルが使えばよかったんじゃねえのか」
ハヤテが不思議そうに言う。
「ウルは昔から争いを好まず、芸術と文化を愛する誇り高い種族だ。だから命を賭しても石を守り、兵器として使われることを拒んだんだろう」
ドクターが答えてくれる。
この石を兵器としてモルドーに使わせない為に、王族の地下室に隠した。
そして地下室を開けるカギとなる子孫を、物語と共にこの島から逃がしてウルの未来に希望を託した。
――――ということか。
「じゃあ結局モルドーはウラルを奪えなかったんですね」
トワの言葉にドクターが頷く。
「そうだ。シンの祖先は命がけで平和を守った。王座に書いてあった真の宝とはこの資源だったんだ」
「それじゃ、真の宝はこの俺がいただこう」
ロイが場違いな声を上げて、台座に飛び乗った。
「おい!てめーー!!」
ハヤテが叫ぶより先に、ロイはウラルを足で挟んで飛び降りる。
ガガガガガガガ・・・・・・・
地響きが起き、城が揺れ始めた。
「やべ!城がっ・・・!」
「はやく逃げるんだ!」
「ったくお前は昔から余計なことばっかするな・・・」
「う、うるさいっ!リュウガ!今は逃げるのが先だっ!!トム、コリンついてこいよ!」
ドドドドドド・・・・・
轟音が響き、地面が激しく揺れうごく。
城の外に出ると、地面が裂けて木々が倒れてきた。
「これは城だけじゃない。島全体が沈んでるぞ!!!みんな、海岸まで走れ!」
ドクターの声に、みんなが一斉に駆け出した。
「走れったって、クソ。宝が重くて・・・!」
ハヤテが大きな袋を引きずりながら走る。
・・・まだ、ここで知りたいことが山ほどあったが・・・。
俺は後ろ髪を引かれる思いで後方の城を見つめる。
前を走っていた●●を見ていると、足がもつれたのか、突然つまづく。
すぐに抱き上げようと駆け寄ろうとした瞬間、
大きな木が彼女の頭上めがけて倒れてきた。
っ・・・!!
間に合わねえ・・・・・!!!
全身の血の気が引いた――――
その瞬間。
見慣れた黒いバンダナが視界に入る。
「・・・お前・・・肩を脱臼してるんだろ・・・」
目の前にはナギが立っていた。
間一髪のところでナギが木を支え、●●は木の下敷きにはならず、無事だった。
俺は木を支えようとして――
手が届く直前に、木の重みでナギが倒れた。
「みんな!手を貸してくれ!ナギが木の下敷きに!」
俺は必死で叫んでいた。
「ナギさん・・・どうしてここに・・・どうして・・・っ」
どうして助けてくれたのか・・・
そう言葉を紡ごうとして続かずに、
●●は泣きそうな顔で必死に木を持ち上げようとする。
俺と●●でナギを助けようとするが、大木はビクともしない。
「お前が・・・呼んだ気がして」
ナギは苦しげに、一言そう呟いた。
「う〜!クソッ!重くて持ち上がらねー!」
ハヤテも加わるが、わずかに動くだけで持ち上がりはしない。
「ふぬー!いつものアタイならこんなモンよゆーだってのに!!」
肝心のファジーも、腕に怪我を負っていていつもの力が出せないようだ。
船長もナギもトワも、全員で木をどかそうとするがナギが脱出できるほどには動かない。
地面が揺れ続けていることで、皆がうまく力を使えずにいた。
「俺を置いていけ」
ナギが微笑む。
「ナギ・・・・」
ナギは俺と彼女を見つめてから――
「お前には守るべきものがあるだろう。本気で愛する女が。そういうヤツは死んじゃいけねーんだ」
覚悟を決めたナギが、ひどく眩しく見えた。
何・・・カッコつけてるんだ。
お前こそ・・・・
命を投げ出してしまえるほどに・・・
●●を愛しているくせに・・・。
「バカ野郎・・・お前も死んじゃいけねーんだよ」
震える声で精一杯絞り出す。
こんなとこで、ナギを死なせてたまるか。
お前は生きて――生きて、
●●が俺のものだということを、もっと・・・もっと知っておかなきゃならねーんだ・・・・!
だから、こんなところで絶対に死なせはしない。
地響きは止まる気配もなく地面を狂ったように揺らしつづけ、
巨大な木は、怪我を負っていたナギの体力をどんどん奪っていく――。
くそっ・・・・どうすれば――――
「おい。そこのチビ。俺たちの縄を解け」
「え?」
トワがロイに聞き返す。
「いーから解け!!」
「・・・解いてやれ」
船長の言葉に、トワがロイ達の縄を解いた。
「リュウガ、貸しだぞ」
ロイとトム、コリン。
三人が加わって、ようやく木が持ち上がる。
――意識を失ったナギを抱えながら、俺たちは必死に海岸まで走り抜けた。