Novel

□本編 Shinside
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37.戦闘

夜。

ドクロ島への行く手を阻むかのように、海が荒れだした。


「帆をたたむんだよ!早くしなっ」

ファジーとトワが帆を急いでたたむ。


「甲板が浸水してきてるぞ」

ハヤテが溢れる海水を桶で掻き出している。


皆がせわしなく動き、荒れ狂う海への対応に追われていた。



舵をとるにも雨が吹き付け、暗く澱む視界では前方が見えにくい。

長い航海でシリウス号のことは知り尽くしていたし、自分の手足のように動かすことが出来る。

海図も頭に叩き込んである。

後は・・・予想外の障害物が出てこねえのを祈るだけだ。







「シンの愛を語る宴は、今夜は中止だな」

船長が隣に立ち、残念そうな表情を浮かべる。

「船長、それどころじゃないでしょう。それに俺はそんなのを語る趣味は・・・」





ドドドドドド・・・・・・・・

波が押し寄せ、船体が大きく揺れる。




「やべー!津波が来たっ!」

ハヤテが叫ぶが・・・・。


ドクターが突然、荒れ狂う海を指差した。

「いや、違う。あれは・・・巨大なマッコウクジラだ!」



その方向を見ると、巨大なクジラがいた。

「この嵐で襲ってきたんだ」




次の瞬間、船体が突き上げられる感覚に襲われ、船が大波にさらわれる。





うわあああ!

きゃあああああ!

ハヤテ、トワ、

そして●●の叫び声が聞こえた。



クジラの動きひとつに、

船が大きく揺れ翻弄される。





「クソ。このままじゃ海面に叩きつけられて木端微塵だ」

操舵柁を握って船を切り回すが、クジラは執拗に船を攻撃してくる。




ドカーン!

「ダメだ。遠すぎて大砲もあたらねえ」

ナギが砲弾で応戦するも、距離がありすぎて大砲が命中しない。




砲弾の距離を縮めようと身を乗り出すナギに、声をかける。

「ナギ、危ないぞ。船に掴まっておけ」




クジラは深く浸水してから、

再び勢いよく海面に現れた。

呼吸孔から潮を吹いて、その水流にハヤテが吹っ飛ばされる。



チッ・・・・・。

デカすぎる。




「あんた、大丈夫かいっ?」

ファジーが床に打ち付けられたハヤテに駆け寄る。

「クソ!あんな化け物ムリだ。このままじゃ船が沈んじまう・・・」



そうだ。

何か手を打たないと・・・

このままでは・・・。



「バカ!あきらめんじゃないよっ!せっかくアタイがリカーからシリウスに来たってのに船を沈められてたまるかってんだよ!・・・そうだ。アタイは元はリカーの人間・・・」

ファジーは何かを悟ったようにクジラを睨んだ。

「お、おい・・・ファジーどうするんだ?」

ファジーが船の隅まで走りだし、大きな袋を抱えて戻る。


どすどす。

ファジーの巨体がシリウスに地響きを起こす。


「きえええええええーー!」

掛け声とともに、クジラの呼吸孔にその袋をぶちまける・・・・・・。




ブシュ―ー。

ブシュ――。



クジラがのた打ちまわって潮を吹き、徐々に沈んで、姿が見えなくなった。










船の揺れはおさまり、いつしか嵐も抜けていた。




「フン!リカー名物のコショウ爆弾だよっ!!」

「やったな、ファジー!」

「さすが女海賊ファジー様ですねっ」

ハヤテとトワ、ファジーが抱き合って喜んでいる。

「当然さ!レディの乗った船に体当たりなんて紳士的じゃない真似は、このアタイが許さないよ!!」

さすがだな。

本当にアイツの逞しさは並みの海賊の比じゃない。




とりあえず切り抜けられた危機にホッとして船の端に目をやると、

ナギが胸から血を流しぐったりと床に横たわっている。


「おい。ナギ!大丈夫か?!」



嵐とクジラから抜け、安堵していた皆は、俺の緊迫した声に一斉に振り向いた。





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