Novel

□本編 Shinside
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35.面舵
「いよいよドクロ島に到着する。貴様ら、用意はいいか」

船長の声に、全員が引き締めた表情になる。

ポポ島を出てから三日。

ドクロ島はもうすぐだ。

島を示す地図は手に入ったが、俺たちは島自体の情報を持っていなかった。

そこに辿り着いた者がいないからなのか・・・それとも。

そこから帰って来た者がいないからなのか。






「トワ、ハヤテ。見張りを怠るなよ」

「おう、まかせろ。シンこそ進路を間違えるんじゃねーぞ」

誰に向かって言ってる。

「愚問だ」



「包帯の消毒を用意しないとね。手伝ってくれるかな」

声の方に視線を向けると、ドクターが彼女の肩に手を置き、話しかけていた。

あの人は・・・自覚ゼロの天然プレイボーイだから一番危険だ。

警戒させない分、あからさまな船長よりタチが悪い。



「そのあと、倉庫の整理を手伝ってもらえませんか?」

「あ、トワ君。うん、いいよ」

「デッキのブラシかけもな」

「えっ。はいっ」

トワにハヤテ

あいつらまで調子に乗りやがって・・・



「じゃがいもの皮むきも頼む」

黙っていたナギが一言つぶやいた。

「え?あ、はい!」

●●も勢いよく返事をする。


こいつら・・・・!

ちょっと油断するとこれだ。

「全員却下。コイツには舵取りの助手をさせる」

俺が腕を掴んで引き寄せると、みんなが驚いた顔をした。



「シン、独占しようとしてるだけじゃねーか」

ハヤテがニヤケ顔でからかってくる。

トワまでもが笑いながら・・・。

「そうですよ。シンさんって意外にやきもち焼きですねっ」



「そんなんじゃない。コイツが断らねーのをいいことにお前らが好き放題・・・」

俺が言いかけると・・・。




「はははっ。これはいい。まさかシンがこの小娘に夢中になるとはな」

船長の一言で全員が笑い出す。

彼女だけが赤くなって俯いていた。

チッ。

「ハイハイ、そういうことでいいです」

投げ遣りに返事をかえす。


「愛の素晴らしさについて、シンがようやく語れるようになったか!めでたい!今夜は祝いの宴だな!」

「シンさんがやきもち焼くなんて
僕初めてみました!」

「港町でことごとく女を足蹴にしてきた、あのシンがなーっ」

「愛の病か」

「ナギっ。はははっ。良いこというなっ。愛の病には酒が効くぞっ」

「僕も恋人欲しいです!」

「いっとくけどアタイはお子ちゃまに興味ないからね!」

「ははっ!トワがファジーにふられてるぞ」

「僕は何もいってないのに〜」

「あんたたちがアタイをイヤらしい目でみてるのはわかってんだからね」

「デブすぎて勝手に視界にはいるだけだろ!」

ハヤテとファジーの喧嘩が始まる。







「・・・・・行くぞ」

●●の腕を引っ張って、操舵室に向かう。



「えっ。シンさん・・・。」

「アイツらのことだ。あそこにいたら何を言われ続けるかわからないしな」

「本当に私が舵をとれるんでしょうか?」

「俺が仕込んでやる。・・・でなきゃアイツらはまたお前に・・・」


「え?」

「いや。何でもない。いいから早く位置につけ」

「は、はいっ」


とにかく・・・・。

「お前は俺から離れるな」

「はぁ・・・」

「返事は?」

「はっ、はいっ。わかりました」

「それでいい」


舵の前に●●を立たせる。

「まず基本的な操作だ。舵は10時10分を持て」

「はーい」

「おい。お前の手は20分になってる。さっさと直せ」

アイツらから離すために操舵室に連れてきたが、
教えるからには容赦はしない。


「船を右に曲げたい時は、面舵いっぱいと大きな声で言いながら右に舵を切るんだ」

「おもかじいっぱい」

「声が小さい」

「は!はいっ!おもかじ、いっぱーい!」

「テンション高すぎるだろ。もう一度だ」

「面舵、いっぱい!」

「よし、船の舵をきってみろ」

●●が舵をきろうとするが、うまく動かない。





「ほら、こうするんだ」

彼女の後ろから腕を伸ばして、その手の上から舵をとる。

「次は左だ。取舵いっぱいと言いながらやってみろ」

後ろから声をかけるが、彼女は心なしか頬を赤くしたまま、ぼうっとして反応がない。

「・・・・・・・・」

「おい。何で黙ってるんだ」

「えっ・・・い、いやっ。はいっ!やります」


慌てて取舵いっぱいと、●●が声を上げた。

だが全然なってないうえに、ぎこちない。


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