Novel
□Sailing day
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むせかえるような香水の匂いに嫌気がさして酒場の裏の細い路地で一息ついていると、見慣れた顔が数人、俺を取り囲む。
「おいシン。お前ナマイキなんだよ!」
「前から一度、そのスカした顔を思いっきり泣かせてやりてーと思ってたんだよな」
「…」
同じ船に乗っている頭の悪い連中だ。
「船員内で揉めごとを起せば追放される。理解したうえでの行動なのか?」
言い放つと、
「ああわかってるさ。お前を船に戻してやるつもりはねーからいーんだよ」
「お前はここで消えて居なくなる、そういうことになるんだからな」
「さすがのお前だってこれだけの人数相手に一人じゃ逃げ道もねえぜ」
男たちの手に鋭利なナイフが煌めく。
俺の背には壁。
目の前に三人。
路地の端と端に二人ずつ。
おそらく店へと続く裏口のドアも俺を消す間、邪魔が入らないように見張りがいるんだろう。
船長以外の船員のほとんどじゃねーか。
――この数か月。
たまたま身を置いた海賊船だが、俺の周りは敵だらけだったということか。
まあいい。
元々慣れ合うつもりなどない
「上等だ」
ニヤリと笑うと、目の前の男たちはひるんだ顔を見せる。
「なっ…ナニ笑ってんだよ!お前は完全に囲まれてるんだぜ!」
「船長のお気に入りだからって調子にのるなよ!」
「だいたい、一番新入りのクセに入ってきた時からえらそーなんだよっ」
「この前の港町で俺の女に手を出しただろう?!」
「俺の贔屓にしてた女も、最近じゃお前の話しかしやがらねえっ」
「人の女を取ってンじゃねーよ!!」
フン、結局今回の行動に出た一番の理由はソレか。
「女?数が多すぎて、どいつの事が全く覚えがねーな」
取ったもなにも、言いよってくるのは向こうだ。
別に欲しいと思ったことすらない。
適当に相手をしてやっただけだが、その程度のことで騒ぐなんて馬鹿らしい。
「ヒガミか。みっともねーな。お前達がマヌケで馬鹿でどうしようもねーから、船での立場も女も、俺みたいな新入りに奪われてるだけだろう」
「なんだとっ!」
「ま、その顔と脳みそじゃ女の方が愛想尽かすのも頷けるな。俺が女でも船長でもお前らなんて選ばねえ」
「そっ、そーゆー態度が生意気だって言ってんだよ!」
ヒュッ
逆上した男のナイフが風を切って向かってくる―――が、あまりに遅くて簡単によけることが出来る。
うるさい割に全くと言っていいほど腕の立つヤツはいない。
最初から大した海賊団でないことくらい承知していたが、俺にはとりあえず海原に身を置く為の船が必要だった。
目的の為にも、こんな奴らともめ事を起こして船を降ろされると面倒なんだが…潮時か。
「悪魔の航海士だか何だか知らねーが消してやる!」
ヒュッヒュッ
一人が振り下ろしたのをキッカケに男たちは俺めがけて次々とナイフを振り下ろす。
チッ…
全員銃で撃ち抜いてやりたいところだが、どうするか―――