WTの夢

□玉狛と花火
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『花火?』
「そう、花火。やらない?」

珍しく本部にいた迅に持ち掛けられた話。

「玉狛でさ、今年花火見てないね〜って話になってさっそくやろうってなったわけよ。」
『ふーん、花火ねぇ…。』
「奈月が来ると喜ぶヤツがいるんだよね。」
『…陽太郎?』
「いや?」

意味深に笑った迅に首を傾げつつも任務後、奈月は玉狛支部に向かった。





「わぁ〜!奈月さん来てくれたんだぁ!」
「奈月!待ってたぞ!」
「いらっしゃい奈月さん。」
「よく来たな奈月。」
「もうっ奈月さん遅いわよ!」

花火会場となる屋上の扉を開けた途端、降ってくる歓迎の声。

『…えーと?』
「正解はみんなでした。」
『なんでオレこんな歓迎されてんの?』

隣に並んだ迅に奈月は戸惑いをぶつける。

「最近奈月がこっちに来ないから、みんな心配してたんだよ。」
『ええ、それだけでこんな歓迎される?』
「毎日ここに帰って来てほしいくらいね。」
『…オレ、愛されてる?』
「うん、愛してる。」
『……。』
「……。」
「…なに気持ち悪い会話してんのよ!」

迅と奈月が見つめ合えば、堪えられなくなった小南が赤い顔をして横槍を入れる。

『気持ち悪いだなんて酷いな小南…。オレたち真剣なのに。』
「…えっ、」
「実はオレと奈月、付き合ってるんだよね。」
「えっ。」
「ちょっと待ってください迅さん。奈月さんはオレと付き合ってるんですよ?」
「…奈月、オレ聞いてないよ。どういうこと?」
『…っごめん!オレ、迅も烏丸も好きで…!どっちか一人なんて選べなくて…!』
「そっか…。奈月が苦しむなら、無理に決めなくていいよ。」
「そうですね…。奈月さんを独占出来ないのは悔しいですけど、このまま三人で、っていうのも一つの形かもしれないですね。」
『っありがとう二人共!…っていうことなんだけど…小南、こんなオレは、イヤ…?』

両腕に迅と烏丸を連れた奈月は、小首を傾げて小南を見つめる。

「うっ、なに、何なのよ!知らなかったの私だけ!?もう!みんな早く教えてよ!」
「ごめんねー桐絵。」

宇佐美はにこにこ謝り、木崎は無表情。
陽太郎は首を傾げている。

「ま、まぁ!私は奈月さんが幸せなら、どんな形だって祝福するわよ!」
『小南…すごい嬉しい…。けどごめんこれウソ。』
「そうよ例えウソだって………………ウソ?」

照れていた小南が真顔になった。

「え、だって迅と付き合ってるって…、」
「残念だけど付き合ってないよ。」
「え、とりまるとも…、」
「すみませんウソです。」
「…………、」

小南の爆発まであと三秒。





小南が暴れまわった後、しんみりと花火を楽しむ面々。

『花火の雨〜。』
「おお!いいなそれ!」
『よい子は真似しないよーに。』
「ええ〜!」

屋上から手持ち花火を下に向ける奈月。
陽太郎に気付かれて止めたが、ダメな大人の見本だ。

「線香花火対決する人〜。」
『お、いいね。』
「一番最初に落とした人アイス全員分奢りね!」

宇佐美の呼び掛けに全員集まる。
輪になって座る手元には、じりじりと球体を作り出した線香花火。

「…ねぇ、奈月さん。」
『んー?』

自然とみんなが無言になる中、小南が静かに口を開いた。

「言っとくけど、さっきの本心だから。」
『さっきの?』
「ウソだったけど!…奈月さんが幸せなら、ホントに嬉しいから。」
『小南…、』
「私も、どんな奈月さんでもウェルカムですよ〜。ぶっちゃけちょっと萌えましたし。」
『…ウサちゃんそっち系の人?』
「おかげさまで目覚めたかもしれないです。」
『はは…、』
「オレは、飯を美味そうに食べる奈月が好きだな。」
『ちょ、レイジさんまで何ですか…。』
「奈月と遊ぶのは楽しいぞ!」
『陽太郎…。』
「奈月さんって割とかっこいいですよね。」
『割とは余計だ…。』
「ねぇ奈月、ホントに付き合っちゃう?」
『遠慮させて頂きます。』

いつの間にか全員の視線が奈月に向けられていた。
その視線を受け止めた奈月は一度俯いて、そして、ゆっくり顔を上げた。

『ほんとオレ、愛されてんなぁ。』

線香花火が優しく弾けた。





END.
(よしよし、泣くなよ奈月。)(泣いてねぇよバカ迅。っておい、線香花火落ちたんだけど。)(はい奈月さんアイス奢り〜!)(…ごめんなっちゃん。)

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