WTの夢

□諏訪さんと猫と推理小説
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「何してんだ?こんな所で。」
『諏訪さん!』

雨の路地裏。
人気の無いところで座り込む奈月は、背後から掛けられた声に立ち上がる。

『ネコの声が聞こえたから。』
「ネコぉ?」

諏訪が奈月の足元を覗けば、ダンボールに入れられた子ネコが三匹。

「捨てネコか。」
『みたいです。』

飼えないとわかっているからお互いネコに近付かない。

『というか諏訪さんこそこんな所で何してるんですか?』
「いや、事件のニオイがしてよ。」
『推理小説読みすぎ。』
「つーのは冗談で、お前が入ってくのが見えたから。ヤバイことでもやってんじゃねーかと思ってな。」
『どっちにしろ事件ですよそれ。』

呆れる奈月に諏訪は食い下がる。

「お前バカにしてっけどなぁ、大抵こういう所で事件は起きんだぜ?」
『てことはオレはもう死んでるか誘拐されてるかじゃないですか。』
「ネコに誘き寄せられたな。」
『マジか。』

再び視線を落とす二人。

『…諏訪さん。』
「…何だ?」
『せめて…人通りのある所に移すくらいはやっていいかな?』
「…バカだな、お前。」

ふっと優しく笑った諏訪は、ネコの入ったダンボールを持ち上げて表通りに置く。

「…帰ろーぜ。奈月。」
『…うん。優しい人に、見付けてもらえよ。』

奈月はそっとダンボールの上に傘をさした。

「ほら、濡れんぞ。」
『わ、』

グイッと肩を引き寄せられ、一つの傘に収まった二人はゆっくり歩き出す。

『諏訪さん、イケメンですね。』
「今頃気付いたか。」
『知ってます?イケメンは次々と事件に巻き込まれるんですよ。』
「どんな僻みだそれ。」
『例えば、彼女と歩いていたら後ろからきた車に撥ね飛ばされるとか。』
「ガチじゃねぇか。」
『気を失ったイケメンを見下ろしてニタリと笑みを浮かべる彼女。』
「怖っ!」
『イケメンを轢いた車が停まり、運転席から下りてきた男の手には、路地裏で見たネコが抱えられていた。』
「……何だその推理小説イカす。」
『それ死語。』





END.
(こっち側歩くの怖ぇな。)(女性に恨み買われてるんですか。場所変わります?)(いいよ、水跳ねんだろ。)(…やっぱりイケメンか。)(いや、もうイケメンじゃなくていいわ…。)

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