正義感溢れる野良猫と
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少し離れた公園でようやく振り返った女の子は黒尾が抱えていた遥人を引き寄せた。
「さっきはボールありがとう」
「バレー経験者?」
ぶが悪そうな顔をした女の子は致し方がないように小さくため息をつくと黒尾と目を合わせた。
「そうやで、バレーって言うてもビーチバレーやけどな」
「なんであんなとこにいたの?」
「明日転校する音駒高校ってとこに書類渡しに行ってんけど、ちょっと遥人のご機嫌が悪かったみたいで運動がてらアクロバットして楽しんでた」
「ちょっと意味がわかんないけど、もしかして小柳颯?」
名前を知られていることに驚き後ろに下がって距離をとった。
「なんで知ってんねん…」
まるで野良猫が警戒してるようで思わず吹き出してしまった黒尾に余計に警戒心を強める。
「俺同じクラスの黒尾鉄朗」
「同じクラス!ってことは…音駒?」
「そういうこと」
さっきまでの警戒心はどこへやら。輝くような笑顔を黒尾に向けるときょとんとしている遥人と一緒にくるくると周り盛大に喜ぶ。
「うち、前の学校で、さっきみたいに助けたら逆にいじめてたと勘違いされて、ずーっと喋ってくれるクラスメイトすらおらへんかったからめっちゃ嬉しい!」
「まぁ驚くからね」
「せや!名前!何がええかな?」
くるくると回っているのを切り上げ再び黒尾にかけてくる。
「黒尾鉄朗やから…クロくん…おっちゃん……てっちゃん…テツくん……ローくん?」
「なんで全ての名前の部位から取ろうとすんの……おっちゃんとローくんくんって…絶対誰もわかんないから
普通に呼び捨てじゃだめなわけ?」
「えっ、黒尾?嫌やわ」
めちゃくちゃ嫌そうな顔をしながら首も横に振る。どうやら相当嫌らしい。
「親しみがあらへん」
「俺は小柳って呼ぶ予定だったけど…」
「なんで!?さっき一緒に戦った仲やん!」
「一緒に…?」
やや疑問点が残るが、晴れて高校生になり部活ばっかりで親しく呼び合うほどのクラスメイトなど居ない黒尾。
「颯」
ボソッと下の名前で呼ぶと照れくさそうに顔を赤らめながらも二っと笑う。
「てっちゃん!」
「名前呼び捨てじゃないんかーい」
「鉄朗って長い」
どうやら思ったことにはならなかったものの、嬉しそうな颯に黒尾はまぁいっか、ととりあえず嬉しそうな姿を見ていた。