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萬カナメはクローゼットの中にいた。
「ここから絶対に動いちゃダメよ」
赤い手がカナメの頬を優しく撫でながらそう告げたのだ。愛おしく撫でる手をカナメは重ねた。その行為に答えるように優しく微笑むとそのままクローゼットの扉を音を立てずに閉める。
激しい物音や叫び声が聞こえてきてカナメは小さな体を丸め息を殺す。心臓はバクバクと今にも飛び出してきそうな速さで胸を叩く。ガタガタっと激しい物のぶつかる音。ぎゅっと目を硬く閉じていた。
どれぐらいたったのか、静かになったためふと目を開く。が、それをカナメは声を上げそうになりすぐさま後悔した。隙間から見えていたふたつの目と目が合ってしまったからだった。

「何をしている!!」
「警察だ!!」
「チッ!」

数人の足音。警察だと確かにそう言った声。だがあの目が未だにみているような感覚になりカナメは意識を手放した。

「これは…酷いね〜」

深刻な現場に呑気な声が響く。声の主は渚で、萬修真家は柊真本人も含め4人が無惨な姿で発見された。家の中も赤く染まり警察官でも嘔吐するものが多いほどだった。

「橘くん橘くん」
「はい?」
「そろそろここ以外も見ていい?」
「大丈夫ッスよ、あっ手袋はこっちにしてください」

橘は鑑識ケースからビニール手袋を取り出した。それを受け取って白い手袋の上から装着すると自由に動き回り始めた。うろちょろとする姿を宇佐見が制するまで渚は家中を見て回っていた。

「うさちゃん、別に荒らしに来てないよ?」
「上司にそんなことされちゃ下はやりづらい」

両頬を膨らませる渚だったが背後の微かな物音が聞こえ渚は警戒する様子もなくクローゼットを開けた。その中には涙目で怯えた様子の女の子がいたのだ。頬には真っ赤な手の後が着いている。

「君の萬カナメちゃんじゃない?」
「あっ………あぁっ」

恐怖心で目は見開かれている。慌てて女性警察官を呼びに行った宇佐見と違い渚は手から落ちたうさぎのぬいぐるみを拾い上げると怯えきったカナメの目線へと持ち上げる。

「カナメちゃん、カナメちゃん。そんなにびっくりしなくてもこのおじさん達はカナメちゃんを守りに来た正義の味方なんだよ〜(裏声)」
「せ……せいぎの…みかた?」
「そうそう、だから一緒にお外へ出ていこうよ(裏声)」
「……………だいじょうぶ?」
「このおじさんはめちゃくちゃ強いんだよ〜、カナメちゃんを傷つけるやつはペシペシってやっつけちゃうんだから(裏声)」

怯えから戸惑いへと変わった様子を見て渚はうさぎのぬいぐるみをカナメに持たせ両手を伸ばした。その手に答えるようにカナメはその手に手を伸ばす。
駆けつけた女性警察官と宇佐見は安心して抱っこされる小さな小さな5歳のカナメの姿を驚いた様子で見ていた。

「…おじさん」
「ん〜?何かな?」
「ママとパパとお兄ちゃん達は?」
「ん〜、みんなお空へお出かけしちゃったな〜」
「ママとパパのおめめあった?」
「「目?」」
「カナメちゃん、おめめってこのおめめじゃないよね?」

女性警察官が自分の目を指さす。するとカナメはうさぎのぬいぐるみの手を探る。すると右側の肉球のところが開き緑色のビー玉のような石が姿を現す。

「ビー玉?」
「それエメラルドじゃないかい?」
「「えっ、エメラルド!?」」
「おいおい!本物なのか!?」
「本物だね、カナメちゃんそれはおめめじゃないんでしょ?」
「これのねここにピってはいってるの」

中心部分を指さして縦に切るように動かす。訳の分からない宇佐見と女性警察官。だが理解した渚はその石を大事にうさぎのぬいぐるみへと戻す。

「うさちゃん、橘くんに聞いてみてよ。エメラルドキャッツアイをふたつどこかになかったかって」
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