◆A

□一人と二柱と、それから
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鎮守の森を吹き抜けてきた風が、紅白の紐で倉持の鞄にさがっているお守り鈴をシャランと鳴らした。

これは四年前、大学に行くために一人暮らしを始める倉持にこの神社の宮司をしている祖父が持たせてくれたものだった。

本殿の前に鎮座する稲荷狐たちとお揃いの鈴の音は、何度辛い気持ちを癒してくれたか計り知れない。

まあ、その役目も今日で終わりだが。

慣れ親しんだ赤い鳥居を久しぶりにくぐり、本殿まで真っ直ぐ歩いていく。

ぴしっと気をつけの姿勢から二礼二拍手一礼して、一言呟く。

「ただいま戻りました。」

そう、倉持洋一はここ、小湊稲荷の跡取り息子で、大学で神職の資格を取って帰ってきたのである。

頭を上げて改めて本殿を見る。

すると…

「お帰り。」

「わわ!!」

いきなり声がして、倉持はそれの持ち主を慌てて探す。

すると驚いたことに、賽銭箱の上に先程まで居なかった見知らぬ男がにこにこと座っているではないか。

巫女が着るような白い着物に赤い袴を身につけているので新しいアルバイトかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

男の首もとには紅白のしめ縄のような太い紐が首輪のように結ばれ、大きな鈴がぶら下がっている。

さらに、そのピンクに見える頭には三角形の大きな狐耳がピンと立ってその存在を主張し、腰には髪や狐耳と同色のふさふさした尻尾まで生えているのだ。

こんな変な奴がうちのバイトの訳がない、と倉持は思った。

ならば、何だ?

「あ…あの…。あなた誰なんすか?コスプレなら他所で…。」

おずおずと話しかけた倉持に、男は憤慨したように立ち上がった。

「コスプレだなんて失礼だよ!酷いなあ!」

もふもふの耳と尻尾がピンと立ち、男の感情を表すようにぶるぶると震えている。どうやらコスプレではなく本物らしい。

「こいつが跡取りってマジ!?神様に向かってコスプレ呼ばわりだなんて!自分が祀ってる神の顔も分からないの!?」

ぷりぷり怒りながら、男がさらりととんでもないことを口にした。

「か、神様!?あんたが!?」

愕然と目を見開いた倉持に、男は依然憤りながら、しかし少しだけ満足そうに頷く。

「そう!ここで祀られてる兄弟狐の兄の方!名前は小湊亮介!コスプレイヤーなんかと一緒にしないでよね!!」

尻尾を振り振り告げられた言葉に、倉持は固まり、

「…は、はああぁぁぁー!?」

そして絶叫した。

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