Mikagura
□となりのあいつ。 遊アス
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アスヒが俺の部屋に来てから変わったことというと、ベッドとタンスがふたつずつ増えたことだった。
何故ふたつかというと、恥ずかしいことだが今まで俺の部屋にはどちらも置かれていなかったからである。
服は適当に段ボールに入れていたし、寝るときはソファで寝ていた。
今までそれでよかったし、別に困ることも無かったのだけれど、アスヒが
「そんなのダメです!」
と言い張ったから仕方なく買いに行ったのだ。
最初は慣れないベッドの感触が気になってソファの方がいいな、なんて思ったけれど、一度慣れてしまえばふかふかのマットレスが手放せないのだから、困ったものである。
そういう、いつもは聞き分けがいいのにちょっと我が儘なところがあいつにそっくりで、だからかな、その夜はまたあいつの夢を見た。
「ゆと兄ちゃん、ゆと兄ちゃん!」
ってにこにこ笑って、俺が頭を撫でてやると嬉しそうにまた笑う、あいつ。
俺の、大好きな弟の夢を。
幸せだった頃の記憶を辿って、苦しくて堪らなくて夜中に目が覚めた。
「…またか…。」
一言呟いて、身体を起こす。
辺りを見回すと、反対側の壁沿いに置かれたベッドの上、気持ちよさそうに眠るアスヒが見えた。
昼間よりあどけなく見えるその顔にまたあいつを思い出して、苦しくなる。
「…はあ…。」
もう一度眠るのは無理そうだったので、窓際に置かれていた椅子に座り、夜空を見上げる。
アスヒはいつもこんな夜空を眺めているのかな、ときらきら光る星を見つめて、ため息をついてみた。
あいつは、弟は今、どこにいるんだろう。
そんなことを考えながら、俺はぼんやりと外を眺めていた。
***
どのくらい時間が経ったのだろうか。
後ろで身じろぎする気配を感じて振り返ると、寝ぼけ眼のアスヒがベッドの上で座り込み、こちらを見つめていた。
気がつけば、空には朝日が昇ろうとしている。
「…先輩、おはようございます…。ずいぶん早いですね…。」
アスヒはそう言って、小さく欠伸をした。
俺はいつもの笑顔を貼り付け、にっこりと笑ってみせる。
「おはよう、アスヒ。よく眠れたか?」
アスヒはまだぼんやりとした顔のまま、眠そうに頷く。
そっか、ともう一度微笑んで、俺は立ち上がった。
…大丈夫、ちゃんと笑えてるはず。
さて、今日も演じなければ。
自分さえ騙す一日が、また始まる。