流れる銀のストーリー(MAIN)VOL2

□闇に、錆びる月 一日目 ・二日目
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      一日目


空間に、ピアノの音が、踊る
軽快な、カノン
そして、音階の、端正な調和が、聴こえる



秀史郎に、ゆっくりと、意識が、戻ってくる、
瞳を開こうとしたが、固めの人工被革らしい
布地で、瞳は、きつく覆われている
目隠しされているのに気付き、
視覚が、奪われた恐怖
そして、心も、闇に覆われて、
いきそうになるが・・

ただ、その、装飾音が自在に、
唄うメロディーだけが、
益々、軽やかに繰り返し踊っている
この、最も誰かが、愛する音の連なり・・
自由な、調べ
心なし古い、録音で
そう・・ゴルドベルク変奏曲・・
それもグールドの・・・

その美を、理解し、愛する、誰かを、
自分は一番、知っている
知っているというより
彼は、自分の一部分に成りつつあった存在で、

「シュウ、愛してるよ・・・・」

そう真剣なまなざしと
情熱な接吻を、繰り返す彼・・・

「死ぬまで。君と一緒にいたい・・
君に永遠の愛を誓う・・」

美しく敬虔な愛の言葉・・・
自分の肌、全てに、滑らかな舌を、
獣のように、這わせ、食い尽くすような
欲情にかられる彼
深い快楽と、愛に満たされた・・・日々

「シュウを、僕は、愛してる」

だが、今、彼の秀史郎への仕打ちは・・
その言葉とは、裏腹な
残虐で、卑劣な・・・

バシィッ・・

激しい高圧電流の破壊的な音・・・
肉の、焦げるような不快な匂い
蒼いイオン香

右肩腹が、激しく痛む
身体の向きを、変えようとしたらと
その途端、
腹筋に、引きつりが、起こり痛みが、襲う
そして、悍ましい事実に、付き当たる

両の手首も、足首も、自分自身の
意のままに何故か、動かせない・・

そう、これは、誰かによって、身体を無慈悲に拘束されているのだ
その、誰かとは・・・

「何故・・・公彦・・何故・・?」
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