WT

□助けられる
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「…うう、」

学校から帰る途中にあるコンビニ。数日前から、そこを過ぎるとなんだか誰かに見られているような、誰かがついてきているような気がする。
恐る恐る振り返ってみても、人通りがそこそこある道では誰がこっちを見ているのかもわからない。かといって、人気のない道に入って確かめるなんて怖すぎてできない。

「どうしよう…」

自意識過剰なのかもしれないけれど、なにか嫌な気分が晴れない。自然と早足になる歩調に気付きつつも、早く安全な場所へと急ぐ気持ちに後押しされて自宅へと向かう。
自宅近くの交差点が近くなると視線は感じなくなるから、と交差点が見えて安心した直後。

コツ、コツ、
 ―…、ざり…

「!」

自分の履くローファーの他に、砂を擦るような足音が聞こえて思わずびくりと体が震えた。
なんで、ここまでついてくることなんてなかったはずだ、と脳内で警鐘が鳴り響く。

(やだやだやだやだ!)

背中に冷や汗が滲むのも、早足になっているのもおかまいなしに家へと急ぐ。あと少しで門扉、というところで後ろから肩を叩かれて思わず口から悲鳴が飛び出した。

「おい」

「きゃあっ!?」

「あ?悪い、驚かせたか」

びくっと身体をすくませれば、思っていたよりもあっさりと手が引かれて拍子抜けする。恐る恐る後ろを振り向けば、同じ学校のクラスメイトが立っていた。

「え…あ、荒船くん…?」

「ああ…。いきなり声を掛けて悪かった」

ばくばくと暴れる心臓を抑えた私に対し、荒船くんがばつが悪そうに謝ってきた。

「あ、えっと、私こそごめんなさい…」

荒船くんの周囲をちらりと見るけれど、他にこの道を歩く人影は見えない。とりあえずはよかった、と安堵して荒船くんと目を合わせた。

「荒船くんは、こんなところで何してるの…?」

「たまたまそこのコンビニに居たら七草が見えたんだよ。最近の帰り際に顔色が悪いとは思っていたが、さっき見た時は倒れるんじゃねえかっつーくらい真っ青な顔をしていたから追いかけてきた」

驚かせて悪かったな、と荒船くんがもう一度謝ってくる。
学校であんまり接点の無い荒船くんが声を掛けてくれたぐらいなんだから、余程酷い顔をしていたのだろう。

「そんなに顔色悪かった…?」

「ああ。何かあったのか」

話くらいなら聞いてやれるぞ、と言ってくれた荒船くんにお礼を言って、近くの公園で少し話を聞いてもらう事になった。





「ストーカーか」

ここ数日の話をすると、荒船くんは周囲を確認するように視線を送りながら呟いた。
たぶん、と頷いて小さい声で続ける。

「姿は見た事ないんだけど…」

「いや、七草を追いかけようとコンビニから出た時、路地に男がいた」

大方そいつだろうな、と呟いた荒船くんが腕を組んで怖い顔をした。男が居た、という事実にぞわり、と背中に嫌なものが流れた。腕をさすった私を見て、荒船くんが聞いてくる。

「今のところの被害は?何かされたとかあるか?」

「ううん、後ろからついてくるだけ…」

でも、もう怖くて嫌だ…と絞り出すように言えば、荒船くんは少し考える素振りを見せた後に口を開いた。

「明日、俺が七草を家まで送る。相手が諦めるなら良し、突っかかってくるなら、そこで蹴りをつけよう」

「え、だめだよ!危ないよ!」

相手が何してくるかわからないよ、と告げるも荒船くんは不敵な笑みを浮かべて言い放った。

「大丈夫だ、俺に任せておけ」

「…うん、」

その自信満々な顔に思わずうなずいてしまえば、荒船くんは満足げに笑う。

「よし。…遅くまで悪かったな、家まで送るよ」

「ありがとう」

そんなに遠くない道のりを歩いて戻り、荒船くんにお礼を言って別れた。ぎい、と扉が閉まる直前に見えた荒船くんは、携帯でだれかに電話しているように見えた。





「七草、準備できたか」

「あ、うん」

そして次の日の放課後。ざわざわと騒がしいクラスメイトたちの間をすり抜けて、荒船くんと2人で歩き出す。学校を出て例のコンビニが近くなってくると、荒船くんが話しかけてくれる言葉もどうしても返事が上の空になってしまう。

「大丈夫だ、落ち着け。俺が居る」

「うん…」

あやすような優しい声で言われて、少しだけ安心する。それでもどきどきしながらコンビニを通り過ぎて、予想外に追ってくる足音が無くて安堵したら荒船くんが呟いた。

「…来たな」

「え」

その声に荒船くんを見上げれば、彼は真剣な顔でじっと前を見据えていた。その先に目をやれば、少し先の角からこちらを見る、中年の男と目があった。

「っ!」

それをストーカーだと認識した瞬間に、身体が震えて視線が逸らせなくなった。動けなくなった私を庇うように荒船くんが前に出る。

「や、やっぱり無理だよ…!」

「大丈夫」

ざり、と砂を鳴らして中年の男がふらりと道に出てくる。それからさも通りすがりの様に近づきながら、それでも目だけはしっかりと私に合わせたまま口を開く。

「……お前、その子のなに?」

粘つくような声色に、思わず荒船くんの服の袖を掴む。こちらをちらりと見た荒船くんは、もう一度「大丈夫」と笑って男に顔を向けた。

「なんだろうが、あんたには関係ねえな」

「だよなア」

そう言った男が、後ろのポケットから何かを取り出す。弄ぶようにくるりと動かされ、きらりと夕日に照らされて見えたのは、鈍く光る小さなナイフ。

「ひっ!」

「悪いが死んでくれ、その子はオレが好きなんだ」

「断る」

何処を見ているのかわからないような目をして、男がこちらへ走ってくる。銀色の切っ先はまっすぐこちらを向いていて、ほんとに大丈夫なの!?と荒船くんを見上げると、彼はポケットから何かを取り出した。

「トリガー、起動」

「えっ」

その言葉の直後、荒船くんの身体が制服とは違う、黒っぽい服に変わる。そうだ、荒船くんボーダーだった!私と男が驚いた一瞬の隙に、荒船くんがナイフを持つ男の手首を掴んで捻り上げた。

「いっ!?」

痛みに顔を歪めた男がナイフを取り落とす。それを荒船くんが一瞥して、遠くへと蹴り飛ばした。
かしゃん、と軽い音を立てて壁にぶつかったナイフに気を取られた瞬間、若い女の人の声が聞こえた。

「荒船くんごめん、遅くなった!怪我してない?」

「!」

「俺も彼女も無事です」

こちらに走ってくる女の人は、荒船くんに声を掛けた後に私に向かって笑いかけた。黒髪が揺れて、夕日がきらきら反射している。

「怖がらせてごめんね、もう大丈夫だよ」

「ほんとうに…?」

「本当だよ。この人はもう絶対に貴女の前に姿を現さない」

「任せても平気ですか」

ぎりぎり腕を締め上げたままの荒船くんが訊く。女の人は落ちてるナイフを拾い上げてポケットへ仕舞い、荒船くんを振り返って頷いた。

「大丈夫だよ。荒船くんはその子送ってあげて」

「了解」

気を付けてねと笑って手を振った女の人は、暴れる男をがっちり拘束して引き摺りながら路地裏へと消えて行った。

「荒船くん、ありがとう」

「いや、大したことしてねえよ」

そう言った荒船くんがトリガー解除、と呟くと元の制服姿に戻る。トリオン体って普通に怪我しないって聞くし、それで換装したのかな。

「あの女の人は?」

「ああ、ボーダーに所属してる俺の師匠。あの人に任せておけば、ストーカー野郎は絶対に七草の前には出てこねえよ」

「よ、よかった…!」

ずっと張っていた緊張が切れて、壁に背を付けて深く息を吐いた。大丈夫だったろ?と笑う荒船くんにこちらも笑って頷いて、荒船くんに家まで送ってもらったのだった。



1万hit御礼企画
ストーカーから助けられる

(何かあったら、頼っていいからな)
(ありがとう)


1万hit御礼企画、しろがねさんからのリクエストでした!
遅くなって本当に申し訳ありませんでした…!

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