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□髪を編まれる
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ラウンジの定位置のソファ。
荒船くんと模擬戦する予定の時間まで余裕があったので、ちょっと仮眠しようと腕を枕にして机に突っ伏していた。

♪〜♪〜

「、ん…」

「動くな」

携帯のアラームが鳴り、待ち合わせまであと10分だと告げる。音を奏でる携帯を掴もうと腕を伸ばしたら、前からぐいっと頭を押されて上げかけた頭をゴツッとテーブルに打ち付けた。

「うぐっ!?」

「あ、悪い」

「いたい…だれ?影浦くん?」

「おう」

ひりひりする額を押さえながら声を頼りに問いかければ、肯定の言葉が返ってくる。ということは影浦くんが私の前に座ってなにかしているらしい。髪の毛がちょいちょい引かれる感触がする。影浦くんはもくもくと手を動かしているみたいだけど、なにしてるんだ。

「人の頭を押さえつけてなにしてるのかな」

「蒼サンの髪の毛編んでる」

「何が理由で人の髪の毛を編んでるんだ」

「暇だったから」

「とばっちりか」

もうちょいで終わるから待ってろと言った影浦くんに間延びした返事をして、ずっと音を奏でている携帯を静かにさせて顎の下で腕を組んだ。この方が楽だし、影浦くんの顔も見える。

「影浦くんがラウンジいるなんて珍しいね?」

「ここに蒼サンがいるってゾエに聞いたから、模擬戦してくんねえかなと思って来た」

普段だったら寄り付かないのに、と言えば私を探して来てくれたのだという。影浦くん強いし、模擬戦するなら大歓迎だ。

「もちろんいいよー。先に荒船くんと模擬戦するけどいい?」

「ああ」

髪の毛がちょいちょい引っ張られる感覚を覚えながらも、好きにさせておこうと放っておく。それよりちょっと寝たらおなかすいたなあと思ったけれど、今日は生憎おやつも何も持ってきていない。

「ねえ、影浦くん甘い物もってない?」

「あ?あー…確かヒカリから貰った飴があったな」

「差支えなければください。おなかすいた」

「俺いま手ェ離せねえし。蒼サン手ェ伸ばしゃあ届くだろ、勝手に取れ。左胸のポケットん中」

「了解。ちょいと失礼」

顎の下にいる腕を引っこ抜いて伸ばし、影浦くんの左胸のポケットのボタンに指を掛ける。ぷち、とボタンを外して手触りのいいポケットの中に指を突っ込んだ。

「…ん、あった」

指先に触れたフィルムを引っ張り出す。みかん味の飴らしい。とりあえずそれを手元に置いて、ポケットのボタンを引っかけ直したところでこれが男女逆だったら完全なるセクハラだったのではないかとふと思った。いや、いまのもだいぶ危ないと思ったけれど。

「オイ、やらねえぞ」

「ごめん」

私の視線で感じ取った影浦くんが低い声で唸ってくるから即座に謝った。けど先に言ったの影浦くんなんだからな、と視線をテーブルに向けて心の中で文句を言う。

「でもいただきます」

「おー」

フィルムを破いて口の中にオレンジ色の飴を放りこむ。みかんのさわやかな味を口の中で転がしていれば、特に表情もなくせっせと手を動かしていた影浦くんが急に機嫌悪そうに眉を寄せたのが見えた。

「…」

「どうしたの」

「来たぜ、荒船」

影浦くんが顔も動かさずに告げた言葉に、ちらっと時計を見れば約束の時間の5分前だった。姿が見えないけれど、まだ影浦くんが私の髪の毛を編んでいるので顔の向きを変えることは出来ない。
というか荒船くんの視線が刺さってわかったんだろうけれど、なんでそんな不機嫌になったんだろうか。

「…俺が蒼サンにさわってんのが気に食わねえんだと」

口には出さなかったけれど、私の「なんで?」という視線を受けた影浦くんが手を止めずに教えてくれた。さわってるのが気に食わないって、なにそれ普段よりすっごく機嫌が悪いんじゃないのか。

「今日の荒船くん、機嫌悪い?」

「いや、確実に今悪くなったな…よし、出来た」

編み終わったらしい髪の毛にそっと手を触れれば、なんていうんだろう、両耳の後ろから頭の真後ろまでぐるっと綺麗に編み込まれていて、合流する先っぽはゴムで纏められている。影浦くん器用だな。

「どっかに隠れてっから、荒船の相手が終わったら呼んでくれ。あとその飴俺から貰ったって言うなよ。ぜってー今より機嫌悪くなる」

「え、私を置き去りにするのか」

がたりと席を立った影浦くんに批難する視線を送る。機嫌の悪い荒船くんの相手は面倒なんだぞ…という視線を受けて影浦くんがさらに面倒臭そうに溜息を吐いた。

「蒼サン一人のが絶対早く機嫌直るだろ。それから、荒船が来る前に換装しとけ」

じゃあな、なんて手を振ってさっさと歩き出した影浦くんを、飴をがりっと齧りながら見送る。なんてやつだ…と思いながら換装すれば、後ろから物凄い勢いで近づいてくる足音がする。
とりあえず影浦くんは放っておいて、私は荒船くんの相手をしなくてはと振り向いた。

「遅くなりました」

「お疲れさま。そんなに待ってないよ」

なんだか威嚇するように影浦くんの後ろ姿を見続ける荒船くんの背をぐいぐい押して、模擬戦ブースの方へ向かって行った。



髪を編まれる
手先が器用な影浦くん

(カゲに嫌なことされてませんか)
(模擬戦の約束しただけだよ)
((おーおー怒ってんなあ))






影浦くんは手先が器用そうというはなし
影浦隊の隊服が好みドストライク

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