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□悪戯を
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ボーダー本部内、自室。
今日は私の部屋にお客様が来ていた。

「わ、似合う」

「それ、きっとオレだからですよ。あの二人は確実に似合わないからこのままでいきましょ」

「それもそうだね、そうしましょ」

私の前で悪戯っぽく笑うのは二宮隊のガンナー、犬飼くんだ。
普段と違うのは、犬飼くん、つまり二宮隊の隊服のネクタイが白地に赤や黄色や水色のカラフルな水玉模様がちりばめられた柄になっていること。かわいい、犬飼くん水玉似合うな。

「ちょっと写真撮っていい?」

「ドーゾ!一枚500円からになっておりまーす」

「じゃあ5枚ほどいただこうか」

「あっ撮るんだ?」

携帯を取り出して言えば、それでもワザとらしいような笑みでポーズをばっちり決める犬飼くん。せっかくだし、これは記念だと何枚か写真を撮らせてもらった。あとで彼の携帯にも送ってあげよう。

「点検って名目なんだっけ」

「はい。それなら疑われないでしょうからね」

普段使っているトリガーの点検、という名目で改造トリガーを笑う事になっている。確かにそれなら簡単に改造トリガーを起動してもらう事が出来るだろう。

「では、健闘を祈る!頑張ってね」

「了解」

後ろに置いていた残り二つのトリガーを手渡せば、にこにこ笑う犬飼くんが敬礼の姿勢を取った。
このトリガーには、今の犬飼くんと同じく隊服のネクタイが水玉模様に変えられた設定が入っている。

「動画はばっちり記録させてもらうよ」

「後で見せて下さいよ?」

今から私たちはこのトリガーを使って二宮隊に悪戯を仕掛ける。というか、私が犬飼くんの企みに便乗している形だ。

「いってらっしゃーい」

「いってきまーす、お邪魔しましたー」

トリガーを持った犬飼くんが換装を解いて、手を振りながら部屋から出て行った。それを同じく手を振って見送ってから、テーブルに鎮座するパソコンの前に座り込んだ。





事の発端は、犬飼くんによる「辻ちゃんの驚いた顔が見たいんですけど、なんかイイ方法ありませんかね?」の一言だった。
ラウンジに向かう途中の廊下で話しかけられ、なんだその面白そうな事はと相談に乗ったのだ。

『トリオン体の設定変えるとかどうかな』

『あ、それいいですね』

それから二人で珍しく暇していた冬島さんに協力を仰ぎ、楽しそうだと乗った彼にネクタイを可愛らしい柄に変更したトリガーを作ってもらったのだ。
ネクタイだけなのは、隊服まるごと変えたら流石に匡貴さんに殺されるような気がして、と犬飼くんが言ったからだ。

「ちゃんと見れるかなー」

犬飼くんのトリオン体には、360度を映せる超小型カメラが仕掛けられている。その映像はリアルタイムで私のパソコンに送られてくるため、こうして自室で悪戯の結果が見れるのだ。無論カメラなども全て冬島さんの仕込みだ。彼もまた開発室かどこかで私と同じ映像を見ているのだろう。

『――トリガー起動』

「お」

ざざ、っとノイズが入った直後に響いてきたのは犬飼くんの声だ。それに少し遅れるように映像が届いた。目の前に映ったのは犬飼くんの後輩、辻くんだ。普段表情の乏しい彼の目は、すこしだけ驚きに染まっている。

『犬飼先輩、あの』

『んー?』

『なんだ、そのふざけたネクタイは』

『え?なに、が…水玉ですね…?』

匡貴さんに言われて犬飼くんが演技とは思わせないような驚きの声を上げる。
匡貴さんと辻くんはまだ換装していないが、例の改造トリガーと思しきものを手に持っている。二人の視線がすっと手に持ったトリガーへと落とされた。

『…犬飼先輩のトリガーの設定が変わっているなら、こちらも変わっていると見て良いですよね』

『ああ』

辻くんが言った言葉に匡貴さんが即答で頷いた。それからこちらに視線が向かい、ゆっくりと口を開く。

『これをお前に持たせたのは誰だ』

『冬島さんです』

犬飼くんが答えると、匡貴さんは眉間に皺を寄せてすごく嫌そうな表情をした。それでも任務の時間が迫っているのを見て、溜息を吐く。

『換装しますか』

『…仕方ない。冬島さんには後で話をしておこう』

ふうと息を吐いて、嫌そうな顔をしたままの匡貴さんが換装する。それに続いて辻くんも。

「あれ?」

『あれ?』

『…特に変化はないな』

『犬飼先輩のトリガーだけだったんでしょうか』

犬飼くんと私の零した疑問の声がシンクロした。おかしいのだ、ちゃんと改造トリガーを渡したのにどこにも変化がない。同じく辻くんにも目立った変化は見られない。

「冬島さん失敗したのかな…いやでも冬島さんだしなあ」

私達に内緒でなにか余計な事をしてしたのかもしれないと思ってしまったら、もうその考えが頭から離れなくなってしまった。犬飼くんも同じ考えにいたったらしく、少しだけ間があいて残念そうな溜息をついた。

『えええー、辻ちゃんの水玉ネクタイ見たかったあ…』

『気持ち悪いです』

『あとで文句を言いに行って来い』

『さっき二宮さんが行ってくれるって言ったのに…行きますけど…』

残念そうな声で犬飼くんが呟く。その声を鼻で笑った匡貴さんを先頭に、三人は任務に向かう為に作戦室から歩き出していった。






結果から言うと、犬飼くんの当初の目的である『辻くんの驚いた顔が見たい』は達成した。
一見変わった所は見られなかった辻くんが、弧月を手に駆け出した時に服がはためき、服の裏地が水玉模様になっていることに気付いたのだ。

「そしたら辻ちゃん固まっちゃって壁にぶつかるし」

「思ったより驚いてたねえ」

「作戦成功っすよね」

隊服姿の犬飼くんが私の部屋に再びやってきているが、その服にネクタイはついていない。怒り狂った匡貴さんに毟り取られたのだ。

「それに比べると二宮さんは一瞬でしたケド」

「怒るからネクタイにしておこうって言ったのにね」

「冬島さん、今頃逃げ回ってる頃でしょうよ」

自業自得っすよねえ、なんてからから笑う犬飼くんに頷く。
冬島さんはチャレンジャーとしか言いようのない、匡貴さんの出すトリオンキューブを水玉模様に変えるという事をやっていたのだ。

「写真も撮ってあるんだー」

「えー、オレにも見せてください」

キューブを出した所で気づいた匡貴さんが瞬時にネイバーを殲滅し、犬飼くんのネクタイと辻くんの上着を剥ぎ取って本部へ直行していったのだ。
もちろん格好良いポーズで可愛らしいトリオンキューブを出す匡貴さんの姿もばっちり記録されている。

「犬飼くんこの後は?」

「特に何もないですよー」

「じゃあ一緒にお茶しようよ。お菓子食べながら録画見ない?」

「あ、見ます。ご一緒させてください」

犬飼くんと一緒にお菓子食べつつ録画を見ている間、本部の中では匡貴さんが割と本気で逃げる冬島さんを鬼神の表情で追いかけまわす光景が見えたとかなんとか。



犬飼くんと悪戯を
水玉トリガー、起動!

(これオレにも送ってくださいねー)
(お任せあれ)

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