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□来馬さんと商店街へ!
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「あー…」

「蒼ちゃん、どうしたの?何か音がしたけど…」

「来馬さん…」

鈴鳴支部の隅っこオブ隅っこ、キッチンの端っこでしゃがみ込んでいた私の後ろから声が降って来た。
近づいてきた来馬さんは、しゃがみこむ私の前に無残に割れて散らばる破片を見て血相を変えた。

「わ!コップ割れちゃった?怪我してない?」

「あ、怪我してないです!」

大丈夫です!と言えば、おろおろしていた来馬さんがほっと息をついて落ち着いた。

「よかった…あ、それは俺が片付けるよ」

「すみません…」

蒼ちゃんは危ないから離れていてね、と言ってしゃがみ込んだ来馬さんが、割れた破片を見て気付く。

「あれ、これ蒼ちゃんの…?」

「太一くんにやられちゃいました」

そう、来馬さんが拾っている破片は、私がここに持ってきていた自分のガラスのコップだった。
冷たいお茶入れてきますね!と元気にキッチンへ向かった太一くんは、コップたちを並べた所へポットを持ってきて、ポットを台に置こうとして盛大にコップにぶつけたのだった。
ちなみに太一くんはすぐに謝ってくれたけど、それを見ていた今ちゃんに引き摺られるようにどこかへ連行され、村上くんも慌ててそれを追って行ったのだ。

「太一が?ごめん!」

「あ、いいですって!そんなに大したものでもないですし!」

「そういうわけにもいかないよ」

眉を下げた来馬さんは、手早く破片を片付けるとぱぱっと手を払って立ち上がった。

「蒼ちゃんは、この後時間あるかな」

「あ、はい。今日の任務は22時からなので、それまでは」

質問に答えれば、来馬さんはうん、とひとつ頷いて私に手を差し出した。

「じゃあ、そんなに時間かけないから、ちょっと付き合ってくれるかな」

「?はい」

手を引かれて立ち上がりながら頷けば、普段よりもなんとなく凛々しい、というかしゃきっとした来馬さんにそのまま手を引かれて歩き出す。

「今ちゃんいるかな?」

「あ、はい!」

来馬さんが声を上げると、今ちゃんが近くの部屋からひょこりと姿を現した。それを見た来馬さんが続けて言う。

「蒼ちゃんとちょっと出てくるね」

「了解です」

「いくよ蒼ちゃん」

「はい」

いったいどこへ連れて行かれるというのだろうか。
頭上に疑問符を浮かべながらも、財布や携帯を持った来馬さんに続いて鈴鳴支部を出る。

「何処へ行くんですか?」

「近くの商店街だよ。こっちの商店街には来た事はある?」

「いえ、警戒区域外はあまり…」

「なら良かった。いい所に連れて行くよ」

このあたりは警戒区域から外れているため、鈴鳴支部以外にはほとんど来た事がないと告げると、来馬さんはにこりと笑った。





来馬さんに案内されたのは、ずらりと並ぶ商店街の端っこにあるガラス工房だった。
店の奥に小さな炉があるらしいお店の中には、色とりどりの置き物やお皿などで溢れていた。

「わあ…」

「綺麗でしょ?ここのは手作りだから、みんな一点ものなんだ」

来馬さんに連れられ、綺麗なカップが置いてある一角に案内される。そして「この中から気に入ったコップを選んでね、それを買うから」と言う来馬さんに頷きかけて、はっと我に返る。

「え、いえ買ってもらう訳には」

「大丈夫、経費で落とすから心配しないで。太一の被害の為に経費を使うのには慣れてるから」

「む…それでしたら」

苦笑する来馬さんに、それだったら買ってもらっても大丈夫だろうと安心してコップ選びに集中する。というか、太一くんの被害ってそんなに出ているのか…。

「…あ。来馬さん、これがいいです」

赤に青、黄色などのガラスたちの中から選んだのは、モスグリーンの花の模様が入ったコップ。鈴鳴支部で使うのだし、彼等の隊服に似た色のやつを選んだ。

「それだね」

じゃあちょっと待っててね、とコップを持って来馬さんがレジへ向かっていく。
来馬さんが会計をしている間、店内でガラスの置物たちを見て回る。ほどなくして戻ってきた来馬さんは、来た道と逆のほうへ歩き出した。

「どちらへ?」

「折角だから、この辺を案内するよ」

「ほんとですか!」

ついておいで、という来馬さんの後を追う。

「来馬さんのおすすめのお店とかあります?」

「うん、あるよ。じゃあそこからいこうか」

「はい!」

それから日が暮れるまで商店街を案内してもらい、来馬さんおすすめのお肉屋さんで揚げたてのコロッケを齧ったり、今ちゃんから頼まれた晩ご飯の食材を買いに回ったりした。
鈴鳴支部は比較的来馬さんのような優しい隊員たちが多いからか、商店街の人達も笑顔で接してくることが多いのも発見だった。





「ただいま」

「戻りましたー」

野菜やお肉が入った袋たちを抱えて鈴鳴支部の扉を開いた。ちなみにさらっと来馬さんが重いものを持ってくれたので、私は買ってもらったコップとお肉くらいしか持っていない。

「お帰りなさい」

「お二人とも、買い物ありがとうございました」

「蒼さん、晩御飯はここで食べてってください!」

おれ、今度は頑張りますから!と飛び出してきた太一くんを筆頭に、村上くんと今ちゃんが奥の部屋から迎えに出てくれる。

「えっと…私がお邪魔してもいいんですか?」

晩御飯まで、という私に対して来馬さんが声を上げて笑う。後ろにいる今ちゃんも、村上くんも笑顔だ。太一くんに至っては、もうそわそわと動き始めている。

「なにいってるの!さっき買ったのは蒼ちゃんの分も入ってるんだよ。…あ、嫌だったかな?」

「嫌じゃないです!」

ちょっとだけ悲しそうな顔をした来馬さんに、慌てて首を振ればぱっと笑顔が戻った。

「じゃあ、食べて行ってくれると嬉しいな」

「はい。ご馳走になります」

私が頷けば、太一くんがぴょんと飛び上がる。それから今ちゃんの方を振り返り、きらきらした笑顔で聞いた。

「やったー!おれ頑張りますよ!今ちゃん先輩、おれ何を手伝いましょうか!」

「とりあえず椅子に座って動かないのがお手伝いかな」

「了解!」

今ちゃんに実質的なお手伝いを断られた太一くんがソファに座る。私は今ちゃんのお手伝いだな、と彼女の後を追ってキッチンへ。
それから少し時間をかけて二人でご飯を作り上げ、村上くんや来馬さんに運んでもらい、手を合わせた。

『いただきます!』

買ったばかりの鈴鳴色のコップを横に、楽しい晩御飯の時間は過ぎて行った。



1万hit御礼企画
来馬さんと商店街へ

(今日はお世話になりました)
(またいつでも遊びにおいでね)


1万hit御礼企画、裸族さんからのリクエストでした!
長らくお待たせしました、ありがとうございました!

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