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□三輪隊と絡む
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ラウンジのいつもの奥まったテーブルにてお菓子を食べながら参考書を見ていると、ふいに視線を感じた。

「…あ、奈良坂くんか。こんにちは」

視線を上げれば、生垣の隙間からこちらを窺う瞳がふたつ。初めてこの遭遇の仕方をした時はめちゃくちゃびっくりしたけれど、何回か逢っていれば慣れてしまった。いやあ慣れって怖い、なんて思いながらも時々やってくる後輩へと声を掛けると、生垣の向こうから声が返ってくる。

「蒼さん、こんにちは」

「今日はチョコプレッツェルを筆頭にチョコ系がいくつかあるけど、食べていく?」

「いただきます」

この後輩はだいたい私が食べているお菓子を目当てにやってくる。チョコ系のお菓子を食べているときの遭遇率は80%を超えているから、チョコレーダーでもついているのだろうか。どうせ今日もそれだろうと誘ってみれば、奈良坂くんは即答して私のいるテーブルへいそいそとやってきて、少しだけ目を見開いた。

「陽介」

「よー奈良坂」

私の前に座ってジュース片手にプレッツェルを齧る米屋くんを見て、何故此処にと言いたげに眉をひそめた奈良坂くん。とりあえず米屋くんの横に座らせて、持ってきていたお菓子を奈良坂くんに勧めた。
素直にお菓子をつまんだ奈良坂くんの視線に苦笑した米屋くんが言う。

「オレはこのあと蒼さんと模擬戦すんだよ」

「これ読んだらねー」

「待っているなら教科書でも読んでいたらどうだ、この前のテストの成績も悪かったんだろう」

「秀次にもそれ言われたわ」

チョコプレッツェルを齧る奈良坂くんにずばっと言い切られてもけらけらと笑う米屋くん。気を悪くしないのは良いけれど、成績が悪いのはいただけないと思う。

「三輪隊は米屋くんのテスト前の勉強とか見るの?」

「時と場合によります」

「大体オレが秀次に頼み込んで勉強みてもらうことが多いなー」

「ほう」

私に対して慶がレポートが終わらない等と縋り付きに来るのと同じようなものかと思っていれば、通路から声が飛んできた。

「奈良坂先輩!」

「章平」

奈良坂くんを呼ぶ声は三輪隊のスナイパー、古寺くんだった。イーグレットを背負っているので、個人練習帰りだろうか。
近づいてきた彼が私と米屋くんに気付いて挨拶してくる。

「あ、七草さんに米屋先輩も!こんにちは!」

「よう」

「こんにちはー。古寺くんお菓子食べてく?」

「いいんですか?いただきます!」

プレッツェルを差し出せば、嬉しそうに一本引き抜いて口へ運んだ。さくさく食べすすめるその姿はリスのようだ。
そういえば、彼とは久しく模擬戦していないな。

「古寺くん、この後暇ならお相手してくれない?最近模擬戦してないよね」

「ちょ、蒼さんオレが先だぜ!?」

「わかってるよ」

古寺くんに声を掛けた私にスパンと米屋くんが突っ込んでくるのを笑っていなす。

「蒼さんすみません、この後スナイパーの合同訓練があるので…」

「あら残念。じゃあお暇なときにでも相手してね」

「はい!」

「もうそんな時間か。すみません蒼さん、オレも行かないと」

古寺くんの断りの台詞に反応した奈良坂くんがちらりと携帯で時間を確認し、立ち上がる。

「あ、まってまって」

スナイパー組は合同練習かあ、と思いつつもバッグの中に仕舞いっぱなしだった未開封のお菓子の箱を引っ張り出す。

「お二人さん、これ持っていって」

これは後で食べようと思っていた、きのことたけのこがモチーフの例の戦争勃発系チョコ菓子。それを見た奈良坂くんの目がきらりと光ったのが見えて薄く笑った。

「ありがとうございます」

「いただきます!」

とりあえず古寺くんにその二つの箱を持たせれば、二人は頭を下げてラウンジから出て行った。
可愛い後輩はとことん可愛いな、と思っていれば参考書をちょいちょいとつつかれる。

「蒼さんオレにはー?」

「米屋くんはこれね」

「おお!あざっす!」

チョコをねだる米屋くんに渡したのは卵型のチョコ。中にカプセルに入った食玩が入っているのが特徴のチョコ菓子だ。これは完全に食玩目当てで購入した。
それをうきうきと受け取った米屋くんは、がぶりとチョコたまごに齧りついた。

「食玩、海の動物だったらくれると嬉しい」

「りょうはい」

もぐもぐしながら応える米屋くん。微笑ましいなあと笑顔になりながらも、早く参考書に目を通してしまおうと視線を落とす。
それから少しして、米屋くんがチョコの中から出てきた食玩の入ったカプセルの解体に取り掛かった。

「なにが入ってんスかね」

「生き物系なのは確かだけども」

ぱかりと黄緑色のカプセルが開くと、中からいくつかに分かれた暗い色のパーツが出てきた。それをひとつ拾い上げた米屋くんがくるくる回し見て、嬉しそうに声を上げる。

「蛇!」

「青大将かな」

自分の隊のエンブレムに使用している蛇が出て嬉しそうな米屋くんがそれを組み立てていると、生垣の向こうから声が掛かった。

「蒼さん」

「お、三輪くん」

生垣の横からひょこりと顔をのぞかせたのは、三輪くんだった。今日は三輪隊勢揃いだなあ。
どうしたの?と声を掛ければ、三輪くんがこちらへやってきた。

「陽介を知りませんか?奈良坂がここにいると言っていたんですが…」

「あ、いるよ」

私が指差したのは目の前のソファ。回り込んで来た三輪くんは、テーブルに寝そべるようにして蛇を組み立てている米屋くんを見て溜め息をついた。

「なにをしている」

「お、秀次手伝ってくれよ。ここんとこがどーしてもくっつかなくてよ」

「?貸してみろ」

米屋くんから差し出された欠片を受け取った三輪くんは、それを少しだけじっと見て、てきぱきと蛇の形に組み立てていった。
三輪くんの手からテーブルに戻されると、それはしっかりとした蛇の形になっていた。

「わりと精巧に出来ているものだな」

「そうだなー」

「それは米屋くんにあげるよ」

「まじっすか!」

よっしゃ、これ作戦室においとこーと上機嫌な米屋くんに対し、三輪くんは特に何の表情も見えない。
そんな三輪くんに、とりあえず残っているプレッツェルを差し出す。

「三輪くんはこれどうぞ」

「え?あ、いただきます」

三輪くんは素直に私が差し出したプレッツェルを一本受け取り、少し逡巡してから控えめにぽり、と齧った。

「米屋くん探してたけど、なにしたの?」

「あ」

「ん?」

そういえば三輪くんは米屋くんを探しにここに来たんだよな、と声を掛けると三輪くんは短く声を漏らして米屋くんを見た。

「陽介お前、昨日言った書類はどうした」

「…あ」

やべ、と小さく小さく呟いた米屋くんが、蛇の模型を持ったまま固まった。その様子を見た三輪くんがすっと眉を上げた。米屋くん、出していない書類があったのか。なんて思いながら呑気にぽり、とプレッツェルを齧る。

「陽介」

「いやマジ悪い!すぐに出す!」

「当たり前だ。さっさと行くぞ」

換装している三輪くんにより、首根っこを捕まれてぐいっと立たされた米屋くんがびっくりしながら抵抗する。

「ちょ、待てオレ蒼さんと模擬戦あんの!」

「…本当ですか?」

「本当だけど連れてっていいよ、そっちのが大事でしょ」

「すみません」

「ええー…」

書類は大事だぞーと言えば、こちらを気にしていた三輪くんが良かったと頷く。対する米屋くんはものすごく残念そうな顔で残念そうな声を漏らした。それに笑いながら、米屋くんに大丈夫だよと伝える。

「それ出したらまたおいで。今日はしばらくここにいるから」

「絶対ですよー?」

「おー」

「すみません、お借りしていきます」

「三輪くんも大変だね。頑張って」

ぺこりと頭を下げた三輪くんと、彼に半ば引きずられるようにして米屋くんが遠ざかっていく。またあとでねーと二人に手を振って、再び参考書へ目を落とした。



三輪隊と絡む!
1万hit御礼企画!

(蒼さんー!帰ってきました模擬戦しましょー!)
(蓮とお茶してるからちょっとまってね)
(はーい!)
(本当に戦闘狂ねえ、二人とも)





お、遅くなりました…!

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