WT

□荒船くんBirthday!
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ふう、とひとつ息を吐いてから荒船隊の作戦室の扉についたインターホンを押した。

「こんにちはー。荒船くんいる?」

『蒼さん?ちょっと待ってください』

呼びかけた声にはすぐに反応があり、少しして扉が開き隊服姿の荒船くんがひょこりと姿を現した。

「こんにちは、どうしました?」

「時間ある?ちょっと匿って欲しいんだけど…」

「なにしたんですか」

「影浦くんに追われてる」

「ああ、それでしたらどうぞ」

見つかんない内に入ってください、と荒船隊の作戦室へ招き入れられる。どうやら穂刈くん達は出払っているようで、いるのは荒船くん一人だ。

「カゲに追われてるって何したんですか」

どさりと椅子に腰を下した荒船くんが私に席を勧めながら聞いてくる。とりあえず対面した椅子に座り込んで、荒船くんに向き直りながらサイドエフェクトを発動させた。

「これだよ。影浦君、この眼の色が大層お気に入りみたいでよく見せろって来るんだ。ちょっとくらいなら良いんだけど、一回捕まると10分は離してくれないから結構疲れるんで逃げてきた…」

「ああ、そういう事ですか」

私の視線をばちりと受け止めた荒船くんの「後で〆ておきます」という物騒な言葉に頷いて、瞬きをしながらサイドエフェクトを停止させる。目の色は赤から青に変わった筈だ。
それから少し雑談をして、15分くらいでお礼を言って隊室からお暇した。

「……よし」

荒船隊の作戦室から遠く離れ、静かな廊下でひとり頷く。

「映画のDVDと、ランニングシューズだな」

ごめん、荒船くんと胸中で謝る。
本当は影浦くんに追われてなんかいなかったんだ、彼と口裏は合わせたけれど。本当の目的は、荒船くんの誕生日プレゼントの為に欲しい物を探るためだったんだ。
とりあえず、荒船くんは影浦くんの元へ向かうだろうから先に連絡しておかなければいけない。

『ごめん影浦くん、多分荒船くんがそっち行くと思う』

『あいよ。それよか荒船の欲しいモン分かったのか?』

『ばっちり。映画のDVDとランニングシューズだったから、私はシューズの方を探すよ。確定して欲しいのがあるみたい。あとで荒船くんの足のサイズ教えてくれると嬉しい』

『了解。こっちはDVD探す。穂刈もいるしなんとかなるだろ』

影浦くんに協力感謝のメールを送って、さっそく荒船くんが求めているランニングシューズを探す旅に出た。





「荒船くん、誕生日おめでとう」

「わーさんきゅーまじうれしー」

「……何してるんですか、二人して」

「あ、出水くんお邪魔してます」

出水くんが呆れたように太刀川隊の作戦室へ入ってきたので、芝居をやめて出水くんに向き直る。プレゼントに見立てていた私の真四角のトリオンキューブがキンッと音を立てて消失した。

「予行練習だよ」

「荒船さんの誕生日の?」

「そそ」

「俺はその荒船役してんの」

どや顔をする慶に、出水くんが腰に手を当てて溜息をつく。

「荒船さんは蒼さんに対してまじうれしーとか言いませんよ。それに今日ですよね、荒船さんの誕生日」

「ああ、そうだってな」

「なんで蒼さんは当日に太刀川さんで練習してんすか」

慶にしたのと同じような溜息をついた出水くんが私に向き直るが、なんと言っていいものかと口ごもる。

「プレゼントは買ってましたよね?」

「うん、そこにある」

私が振り返りながら作戦室の扉のすぐ横を指さす。出水くんが視線を送る先には、紙袋に入った青い包装紙に包まれた四角い箱。

「荒船さんのスケジュールは?」

「今日は16時まで任務で、18時から荒船隊の作戦室でパーティ。それまで多分ラウンジにいると思うけど」

「そこまでわかってんのに何で行かないんですか」

おれなんてさっさと渡しに行っちゃいましたよ?と本気で首をかしげた出水くんに、苦笑いしながら理由を告げる。

「なんかね、気恥ずかしくて」

「ずいぶん今更ですね」

「だよなー」

はっはっはと笑う慶に、別にいいでしょと肩を叩く。
私が憤慨していれば、ふうと一息ついた出水くんは腰に手をあてたまま扉の外へ向かって声を上げた。

「ですってよ、荒船さん」

「えっ」

開いたままだった扉から、ひょこりと出てきた見覚えのありすぎる帽子。
なんてことだと小さく呟いた私の声は聞こえただろうか、太刀川隊の作戦室に入ってきた荒船くんは帽子を取って慶に頭を下げた。

「太刀川さん、お邪魔します」

「おー、ゆっくりしてけ」

「…よしわかった慶ありがと今度またお菓子持って遊びに来るそれではお邪魔しました出水くんあとで覚えてろではまた」

「あっ!」

荒船くんたちが慶の方を見ている間にカメレオンを起動。すばやく荷物を回収して最速で太刀川隊の作戦室の扉をくぐり抜ける。静止するように伸ばされた荒船くんの腕は私のすぐ横をすり抜けた。





「しくじったー…」

まさかあのタイミングで荒船くんが来るとは思わなかった。その日が誕生日の隊員の大半はラウンジで先輩後輩友達問わずプレゼント責めにあっているから油断していた。

「だからってここっすか」

「もう君たちから渡してくれないかな…」

「気まずくなりませんか、それだと」

「やっぱり自分で渡したほうがいい?」

「そりゃ自分の師匠から手渡されたほうが嬉しいでしょ」

ほんとダルいっすね、なんて零す半崎くんに、黙々と部屋の飾りつけをしている穂刈くん。私はパーティの準備をしている荒船隊の作戦室すみっこに、邪魔にならないように体育座りをしていた。

「居ていいですよ、気持ちが落ち着くまで。時間まで来ない、荒船は」

「ありがとう」

「その代わり、ちゃんと渡さないとダメっすからね」

「了解」

どうやら準備やらなんやらで6時まで荒船くんはここに戻ってこないらしいから、少しだけここで落ち着かせてもらうことにして目を閉じた。それから何回か深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。

「…行ってくる」

「あ、了解っす」

「ラウンジでしょう、今の時間なら」

「ありがと」

2分後、少しだけ落ち着いたので、気を取り直して荒船くんの元へ向かうことにした。半崎くんと穂刈くんにお礼を言って、プレゼントを持ち直して扉を開いた。





結論から言えば、荒船くんはラウンジに居た。笑みを浮かべ、周りを取り巻く人達からプレゼントや祝いの言葉を貰っている。
これは邪魔しちゃまずいかなあ、と定位置になっているソファに座った。プレゼントはとりあえず横に置いて、観葉植物の隙間から代わる代わるお祝いされる荒船くんを見ていた。

「蒼さん」

「あー、出水くんか」

「さっきはすいませんでした」

「いーよもう」

声に釣られて顔を上げれば、ばつの悪そうな顔をした出水くんが立っていた。彼の謝罪に軽く手を振って過ぎたことだと告げる。とりあえず暇だし、出水くんを前の席に勧めた。

「荒船くん、人望あるよねー」

「ありますね」

次から次へとやってくる隊員たちを見ながら言えば、出水くんも頷く。あの波が途切れたころに行こうと思っているんだけど、なかなかそんなタイミングが訪れない。

「このまま6時になっちゃったらどうしよう…」

「その時はさっと行ってさっと渡すしかないんじゃないっすか」

「それは本当に最終手段にするけどさあ」

ため息を吐きながらテーブルに頭を打ち付ける。ごつん。良い音がしたなあ、なんて出水くんが呟いて、がたりと席を立った。

「さて、おれ任務があるんで行きますね」

「はーい、気を付けてねー」

テーブルに突っ伏したまま手を振れば、出水くんが笑いながら去って行った。それの3拍くらいあと、どさっと目の前のソファに誰かが腰を下ろした。影浦くんかな、と顔をあげた先にいたのは荒船くんだった。

「あれ、荒船くん」

「蒼さん、さっきはよくも逃げましたね」

「ごめん。まさかあそこに来ると思わなかったからパニックになった」

「まあ、そんなところだとは思いましたが」

こちらをじっと見据える荒船くんが、ゆっくりと足を組んだ。出水くんは荒船くんが来るのが見えて気を利かせたんだろう。少し遠くでこちらを振り返って、頑張れとでもいいたげな笑みを浮かべている。

「もう向こうはいいの?」

「ええ」

「プレゼントとかは?」

「まとめて、鋼に作戦室に持って行ってもらいました」

プレゼントの一つも持っている様子がない荒船くんに問いかければ、しれっと村上くんに任せたと言い放った。
わざわざ身軽になってからこちらに来てくれたんだし、プレゼント、受け取ってくれるかな。

「私からもプレゼントがあるんだけど、もらってくれる?」

「何言ってるんですか、断る訳ないでしょう」

「よかった」

私の問いにふっと目を和らげた荒船くんに笑いかけ、隣に置いたままの袋を持ち上げた。

「…荒船くん。誕生日、おめでとうございます」

お祝いの言葉と共に、青い箱と小さな封筒を手渡す。
荒船くんは少しだけ嬉しそうに口端を上げて、プレゼントを受け取ってくれた。

「ありがとうございます。…開けても良いですか」

「所有権は君に渡ったし、お好きにどうぞ」

ようやく荒船くんの誕生日を祝う事が出来たから満足してるし、と言えば荒船くんは丁寧に包装紙を剥がしだす。
大きい方の箱から開ける事にしたらしい荒船くんが、箱を開けてランニングシューズと対面する。

「!これ…」

「勝手に見てごめんね」

自分の欲しい物をピンポイントで当ててきた私に、荒船くんが不審がっている視線を送って来た。「影浦くんと共謀してました」と謝れば、それがすぐにこの前匿った時の事だと気づいたんだろう、すぐに人の悪い笑みを浮かべて笑った。

「あー…そういうことですか」

だからカゲなんかも欲しい物ドンピシャでくれたんだな、と笑う。そんな荒船くんに、これはその謝罪がわりなんだけど、と封筒を指差す。

「?」

首を傾げた荒船くんが留めてあるテープを剥がす。封筒の中から現れたのは、近隣の映画館で使える鑑賞券。荒船くんなら喜んでくれるだろうと購入してきたものだ。

「5枚も」

「荒船くん、明日明後日ってお休みでしょ?使ってくれるとうれしいな」

「はい。ありがとうございます」

にこにこしている荒船くんが大切そうに鑑賞券をしまう。
そんな荒船くんを見ながら、今日はだいぶゴタゴタしたけれど、ちゃんと荒船くんを祝えてよかったと笑みを浮かべた。

(この一年が、君にとって幸せな年になりますように)



荒船くんHappy Birthday!!
2015/9/9

(ところでこれ、全部で20枚を超えたんですよ)
(映画見放題だねえ)
(嬉しい限りです)







荒船くん誕生日おめでとう!
君が私のWT熱を燃え上がらせたといっても良い程に惚れ込んでいる!大好きだー!

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