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□お祭り
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事の発端は、たまたま行き会った任務帰りの慶に今日の夕方から警戒区域のそばでお祭りがあるらしいという事を聞いて、行きたいなあと呟いたことだった。

「で、なんでこうなったのかな」

「お祭り行きたいっつったの蒼さんだって聞きましたよ?」

「祭りとか久々だなー」

「蒼さん1人じゃ心配だそうです、荒船が」

「まあ、人数は多い方がいいよねえ」

「つーか、ホント過保護だよなァ」

「鋼、お前蒼さんの傍から離れるなよ」

「ああ」

お囃子の音が聞こえてくる中、川沿いの道を歩いている私は18歳男子たちに囲まれていた。
事の発端となった私の一言を、たまたま近くに居たらしい穂刈くんが拾って荒船くんに伝え、私が一人で出歩かない様に18歳組の面々に召集を掛けて任務帰りの私を捕まえたらしい。影浦くんの言う通り、本当に過保護だ。
お祭り来れたのはいいけど、と荒船くん達に厳重に警備されつつ、祭り会場である神社へ向かって行った。





「あれ?…はぐれたかな」

「はぐれましたねー」

「見事に誰もいないねー」

ぽつりと呟く私の声に、2人分ののんびりとした声が答えた。
とりあえずはお参りだろ、とぞろぞろお参りに行って、北添くんと犬飼くんとおみくじ引いてたらいつの間にかはぐれたらしい。早すぎる。

「荒船くんに殺されるかなあ」

「流石にはぐれただけじゃ大丈夫じゃないですか?」

「普段どんな教育されてんすか」

俺らが居るから大丈夫でしょと笑う犬飼くん、おみくじを結んできた北添くんと辺りを見回してみるが、目印になる背の高い当真くんの頭も見えない。
これは駄目だなと諦めて、とりあえずお祭り会場を歩き出した。はぐれちゃったけど、楽しまなきゃ損だ。

「お、りんご飴だ」

「食べます?」

「ちっちゃいの食べたい」

「よし、ゾエ俺おっきいやつな」

「あれれ、ゾエさんが買う流れ?」

「ご馳走様でーす」

りんご飴の屋台の前で足を止めれば、北添くんが犬飼くんに唆されてりんご飴を買いに行ってくれた。
差し出されたりんご飴をお礼を言いながら貰って、3人で真っ赤な飴を齧りながら歩く。

「あまーい」

「やっぱりんご飴って定番っすよねー」

「ねー」

「見て見て〜、ゾエさんの舌!」

「わ、真っ赤だ」

「それを言ったら俺らも真っ赤っしょ」

べー、と互いに舌を見せて笑いあう。飴のコーティングをがりがり齧って剥がして、中のりんごに齧りつく。私のは一番小さい姫りんごの飴、北添くんと犬飼くんは一番おっきなサイズのりんご飴を齧っている。

「おいしかった!」

「あ、ゴミ捨ててきますよー」

「ありがと」

「ゾエ、お前蒼さんの傍にいろよ」

「りょーかい」

犬飼くんが割り箸を捨てに行ってくれている間、北添くんと近くのわたあめの出店を見ていると、北添くんにどんっと誰かがぶつかってきた。

「っわ、」

「平気?」

すこしだけよろけた北添くんに声を掛ければ、平気ですよと笑顔が返ってくる。安心したのもつかの間、ぶつかってきた相手が文句を言ってきた。

「オイ大丈夫か?」

「あーだめだわ腕折れたわ!こりゃ慰謝料貰わないとなあ!」

「ぶふっ」

「あ、駄目ですよ蒼さん。いくら古典的だからって吹き出しちゃ」

「ふふっご、ごめ、」

まさか古典的チンピラの様な台詞を地で言ってくる人がいるとは思わなかったもんで、盛大にツボに入ってしまった。ぱしりと口を掌で覆う。
そんな私を3人のチンピラさん達から庇うように、北添くんが前に出る。

「とりあえず有り金全部出せや、な?痛い目見たくねえだろ?」

「ふ、っふふ、」

古典的過ぎるだろ、と堪え切れない笑いが口から溢れてしまう。それを心配そうに見てくる北添くんには悪いけれど、これはどうしようもない。
犬飼くんが居ればこうはならなかったかもしれないけれど、彼はいまゴミ捨てという重大任務に就いている。

「蒼さん、1人にして悪いんですけど先に逃げてもらえます?」

「っふ、了解」

確実にチンピラ達の怒りゲージを上げに入っている私を遠ざけるように北添くんがそっと呟く。
それに応えて、彼の背中に隠れるようにしながら雑踏の中へ紛れ込んだ。





「はー…いやいや、あんな人もいるんだなあ…」

とりあえずは犬飼くんと合流しようと歩いていれば、少し遠くの店でどよめきが上がった。
その声に釣られてそちらを見れば、背の高いリーゼントヘア。当真くんだ。

「当真くん!」

「あ、蒼さん!なあ、蒼さん見っけたぞ」

「叩くな、当真」

狙いにくいだろうと文句を言うのは、穂刈くんだ。スナイパーの血が騒ぐのだろうか、2人が居るのは射的の屋台だった。
すでに二人の周りには獲得したと思われる景品たちがずらりと並んでいる。どよめきはこれらを次々と撃ち落とす彼らによるものか。狙いを定めた穂刈くんが軽い音を立ててコルクの弾を発射させれば、それは綺麗に箱のお菓子を弾き落した。

「蒼さん、何か欲しいのあります?」

「え、取ってくれるの?」

「大丈夫そうです、ここにあるのなら」

「そそ、任せてください」

にんまり笑う彼らの好意に甘えて、何か目を引く物が無いか景品を物色する。
ぬいぐるみ、お菓子、小物が並ぶ中、ひとつの置物が目を引いた。

「あ、あれがいいな」

「どれっすか?」

「イルカの置物ですか、右上の」

「そうそれ!」

二頭のイルカが波に乗っているような置物がいいなと言えば、すっと玩具の銃にコルク弾を装填した穂刈くんが狙いを定める。
ぱんっと良い音を立てて発射された弾は、置き物の波の部分に当たったけれど少しずれただけで落ちては来なかった。

「う、惜しい」

「狙うトコが違えだろ、貸してみ」

「ああ」

当真くんが穂刈くんから銃を受け取って小さいコルク弾を再装填、それからおもむろに銃を構えて引き金を引いた。
当真くんが撃ち出した弾は右側のイルカの口先に当たり、勢いよく仰け反った置物が半回転しながら後ろへ倒れ込んでいった。

「おおー!」

「ま、こんなもんっすよね」

「流石だな、スナイパー1位は」

当真くんは穂刈くんに銃を返し、店主から置物を受け取った。それを笑顔で私に手渡してくれる。

「はいどーぞ、蒼さん」

「ありがとう!大事にする!」

もらった置物が万が一にも破損しないように大事にバッグの中へ仕舞い込み、穂刈くんは残っていた2発の弾を消費するように、正確に箱物のお菓子を撃ち落した。
穂刈くんはそれらの戦利品たちを袋につめてもらい、それを担ぐように持ってこちらを振り向いて首をかしげた。

「どうしました?他の人達は」

「犬飼くんと北添くんが一緒に居たんだけど、犬飼くんはゴミ捨てという重大任務に、その間に北添くんは悪の犠牲になりました」

「悪の犠牲…」

「ゾエなにしたww」

笑う当真くんに北添くんは大丈夫だろうと伝えてから、それよりもと口を開く。

「当真くんたちも荒船くん達とはぐれたの?」

「いや、最初は蒼さんを探してましたよ」

「ちゃんと探してました、当真がここの出店を見つけるまでは」

「なんだよ、お前だって楽しんでたろ」

「それのお蔭ではぐれたがな」

「やっぱりはぐれたのか」

じゃあ、荒船くんの現在地もわからないよなあ。
でもとりあえずは背の高い2人にくっついていれば、その内合流できるだろうと考え直した。

「一緒についてってもいい?」

「何言ってんすか、蒼さん1人にするわけないでしょ」

「荒船に殺されます、俺たちが」

ほら行きましょー、と言う当真くんと穂刈くんに挟まれるように歩き出す。この2人なら遠くからでも目立つし、はぐれてしまった犬飼くんや北添くん、荒船くん達からもすぐに見つけてもらえるだろうと一安心した。




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