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□助けてくれる
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「しまった痛い」
ボーダー本部内のとある通路にて、私は盛大に足を挫いて座り込んでいた。
「あー、やっぱり邪な考えじゃダメなんだなー」
仰ぎ見る背後の階段。
急いでいたのでこれをぴょいっと飛んだら足を挫いたのだ。
挫いたせいで上手く立ち上がれず、本部長に呼ばれているというのに時間は刻々と過ぎていく。
「トリオン体で行ければいいけど…修復中だしなー」
生身で行くしかないよなあと覚悟を決めた時、後ろの方から声が降ってきた。
「あれ、蒼さん?」
その声に階段の上を見上げれば、これから任務に行くのだろうか、太刀川隊の隊服に身を包んだ出水くんが居た。
「ん…?わーい出水くんだ助けてー」
「なにしたんすか」
階段の上に居た出水くんは、ヘルプコールによって私が居る階段の下まで降りてきてくれた。
「左足首がぐきっと短い悲鳴を上げてから活動を拒否しています」
「ああ、挫いたんすね」
「手を貸していただきたい」
「勿論」
私の助けを快諾してくれた出水くんに手を引かれ、壁に手をついて立ち上がる。
「っ…と、ありがと」
「いいえ。足、平気っすか?」
壁に手をついたまま、ゆっくりと足に体重を掛ける。
ある程度まで体重を掛けるとズキン、と鋭い痛みが走って顔が引きつった。
「―ッ、あー…どちらかと言えば平気ではないけど…うん、頑張れば歩けそう。というかなんとしても歩かねばならない」
「医務室連れて行きますよ」
「本部長に呼ばれてるからそっち先に行かないと」
「あー」
本部長、随分待たせてしまってるから早くいかなくては。と出水くんにお礼を言って歩き出す。うう痛い…
「出水くんありがとー、今度ご飯奢らせて。ではまた…」
「は?その足で行くんすか」
「え?行きますけど?」
後ろから訊く出水くんにそう言えば、出水くんは溜息を吐いてこちらへ近づいてきた。
「連れて行きますよ」
「え、いいよ。出水くんこれから任務でしょ」
「まだ時間ありますから平気っす。第一、手を貸しただけでご飯奢って貰うのはどう考えても割にあわないっすよ」
「うーわなんて良い子なんだ。じゃあお言葉に甘えて、本部長の所までお願いします」
近づいてきた出水くんに甘えて手を差し出すが、出水くんは手を無視して私の横で屈んだ。
「ん?」
「っよ、」
「わっ」
短い掛け声と共に膝裏を掬われ、身体が浮く。
びっくりして伸ばしたままだった手で出水くんにしがみ付いた。
「うわー…お姫様だっこだ…辛くない?」
「平気っす。これの方が早いし、蒼さんの足も悪化しないでしょ」
「キャー出水くんかっこいー」
「棒読みじゃないっすか。ちゃんと掴まっててくださいよ」
「了解」
出水くんは私を抱えたままスタスタと歩き出す。
せっかくなので私はいつもより高い視点を楽しむことにしようではないか。
人気のある場所に出ていけば、お仕事中の隊員達がもの珍しそうな視線を送ってくるけどそれは笑顔でスルーしていく。
「はい到着」
「助かった!ありがとー」
出水くんの長い脚によって、5分とかからずに本部長の部屋の前まで来ることが出来た。
部屋の前で降ろしてもらい、足の調子を確かめていると出水くんが口を開いた。
「じゃ、おれは任務行きますけど、このあとちゃんと医務室行って下さいね?」
「大丈夫、ちゃんと行くよ」
「一応米屋に連絡しときますんで、何かあったら遠慮なく呼んでこき使って下さい」
「うん、色々ありがとう!任務行ってらっしゃい」
「行ってきます」
再三私を気にかけて携帯片手に走り出した出水くんの背を見送り、角を曲がって見えなくなった所で本部長の部屋へ足を踏み入れた。
不幸中の幸い
出水くんに助けられる
(なんと休暇を手に入れた!)
(良かったっすね)
(これでいつでもご飯行けるよ。何食べたい?)
(じゃあ、手料理はアリっすか)
お姫様抱っこ強化週間