きみは最後に笑う

□愛される悲しみに声を張り上げた
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引退後も、定期的に守里は俺にキャッチボールをしてほしいと頼んでくる。多分だけど、未だに自分が引退した実感がないんだと勝手に思っている。そう思うのも無理はない。キャッチボールだけでも分かる、まだまだキレのあるストレートや変化球。幾度となく受けてきた球たち。未だに気持ちいい音を立ててミットに収まる。



「……守里、変わんないな」


「何がですか?」


「いや、楽しそうに投げてるなって思っただけ」


「そうですかね……」


「うん。今もそうだよ。楽しそうに投げてる」


「うーん、そんなに自覚はないですけど」


「何だろうな、生き生きしてる」


「実際、投げてるのは楽しいですからね。物心ついた頃からボールを握って投げてましたから」


「俺も、守里の投げてる球、受けてるのすげえ楽しかったよ」


「過去形なんですか」


「今もこうやってキャッチボール出来てるの楽しいけどな」


「はは、そりゃありがたい限りです。こう定期的に投げてないと身体がなまりそうで怖いんですよ」


「その発言がもはやプロなんだよ」


「鶴さんも私が引退してからもこうやってキャッチボールの相手してくれて嬉しいです」


「俺相手に投げるのもいいけど、若手たち相手にも投げてやれよ」


「……それ、こないだいしりょにも“俺にも投げてください”って言われましたよ」





愛される悲しみに声を張り上げた

20190502


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