きみは最後に笑う

□擦りむけた心臓がただあなたに会いたがる
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見慣れたすらっとした後ろ姿。派手な髪色。今年から、力強い選手がファイターズに加入する。



「ねこさん!」



後ろから声をかけると、立ち止まり振り返っていつもの笑顔を返してくれた。ああ、この人は変わっていない。今までバファローズのユニフォームで見ていたから、未だにファイターズのユニフォームを着ていることに違和感を感じるが、それはさておき。



「守里!探してたんだ」

「そうなんですか?」

「うん。ファイターズに話したことあったりする選手はいるけど中々行けなくて…守里だったら1番気心知れてるから頼れるし」

「え、でも見た感じ宮西さんとかと話してませんでした?」

「うーん、そうなんだけど宮西くんも色々忙しいみたいで。新しい知り合いの広報さんに頼もうかなーって」

「あー、なるほど。でもちょうどよかった。うちもねこさんのこと探してたので」

「……ふふっ、」

「? 何ですか?」

「それ。“うち”、って言った」

「……言ってましたか」

「ばっちり。守里、気づいてないかも知れないけど信頼してる人には歳関係なく“うち”って言ってるよ」

「うわ〜〜…まじですか。意識して私、って言ってたのに……」

「俺相手だから気にしなくていいのに。ね?」

「はーい」



ねこさんがファイターズにいることが慣れなくて、どこか少しくすぐったくて、思わず笑ってしまう。きっと今の私は、変な人に映ってるだろう。



「珍しいね、守里がそんなにニコニコしてるなんて」

「そうですね、ねこさんがこうやって一緒のチームに居るなんて変な感じだけど嬉しいので」

「……守里がもう1年続けてくれてたら、俺と継投出来たのにねぇ」

「……そうですね。引退撤回すればよかった」

「はは!まあまずはゆっくりしなよ。色々落ち着いたらご飯一緒に行こう。道民になるし、家に遊びに来てもいいよ」

「ホンマですか!奥さんの手料理美味しいしお子さん達可愛いし楽しみにしてますね」

「いやいや、守里の料理も美味しいでしょ」

「あの金子千尋に褒められるとは恐れ多いです、ありがとうございます」

「どういたしまして」

「……あ、そうだ」

「ん?」

「ずっと呼び方安定してなかったような気がするので……千尋さん」

「!!」



今までねこさんとか千尋さんとか色んな呼び方をしてたからそろそろ呼び方を固定したいなと思ってたところだ。今年からはチームメイトになるんだし、思い切って千尋さんで固定してみよう、そう考えていた。特に何も意識せず呼んでいたが、突然黙ってしまった千尋さんの方を見ようとすると、大きな手で目を覆われてしまった。



「……千尋さん、こんなことしたら歩けませんけど」

「いや、ごめんちょっと休もうか」

「ええ……」

「今すごい変な顔してると思うからさ、……ていうか守里、いつの間にそんなこと覚えたの?」



大きな手はすぐに目から離れ、今度は頭を撫でた。表情は、いつも通りの千尋さんだった。



「……さあ?」



ニヤリとすっとぼけると、「俺の知らない間に一回りくらい成長したんだね」と返された。





擦りむけた心臓がただあなたに会いたがる

20190303


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