プライド

□毛布にくるまる
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誰もいなくなったロッカールーム。まもは未だ口を開かず。もうそろそろドームも閉められるんちゃうか?シャワーとかもう済ませてるからあとはもう帰るだけなんやけど。



「……なあまも、黙ってどうしたん?言わな分からんで、」

「…………」



ずっと下に向けていた顔を少しだけ俺の方に向けてくれたおかげで、やっと顔が見れた。いつもクールでキリッとした表情はどこか困ったように、照れたように、情けないような、色んな感情が見て取れた。



「……はは、恥ずかしい、」

「何が、」

「……ナオさんが、600試合登板273ホールドっていう記録出して、ヒーローインタビューに選ばれてみんなに祝われて、新聞にも載る。み〜んなの目に映る。それが、私だけじゃなくて、あの……」



無意識に頭を撫でていた。今度は、びっくりした顔になった。今日は感情が忙しい日やな。



「……おめでたい話ですけど、最近そういうのを見るとみんな見ないでー、私だけのナオさんなのにー、って思っちゃって、何か恥ずかしく?なっちゃって……独占欲、というか……嫉妬?みたいな……あー!恥ずかしい!今の!忘れてください!帰ります!!」



まもらしからぬもにょもにょした喋り方で、なんちゅう恥ずかしさでムズ痒いけど珍しく可愛いこと言うとるん?忘れようにもしんとしたロッカールームの中ではそのもにょもにょとした喋り方でも話は聞こえるわけであって。荷物を持って帰ろうと立ち上がるまもの手首をぐっと掴んだ。その反動でバランスを崩し、まもは俺の身体に体重を預ける形になった。



「ナオさん、ねえ……帰らせてください、」

「……2人の時にんなこと言うん、狙っとるんか?」

「狙ってなんか、」

「……あー、ほんっまお前可愛いがすぎる、」

「!!! そんっな、こと、言うの……ナオさんくらい、!!〜〜〜ッ、もう!!色々とおめでとうございます!!!」



唇に少し触れた温かいものを理解するのに時間はかからなかった。不意をつかれびっくりしている間に腕の中から逃げ出したまもを、少し間を置いてから追いかけた。





毛布にくるまる

20180929


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