プライド
□ドキドキはおやすみ
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さっきから身動きが取れない。試合が終わって、ロッカーまで戻り引き上げようとした矢先、まもさんに急に抱きしめられたのだ。しかも、後ろから。まもさんからこういうことをすることは珍しく、みんな好奇の目で見てくる。まもさんから抱きしめられてることも、好奇の視線がひしひしと伝わってくるのも恥ずかしい。
「あのー…まもさん?」
「なに」
帰ってくる返事は、いつも通り。まもさんの行動は何年経っても読めないから困る。
「いつまでこんな風にしてるんですか」
「うちの気分が満足するまで。……だめ?」
ええええええ。何だ今日のまもさん。めちゃくちゃデレてる。レアだ。とんでもなくレアだ。「……だめ?」って聞いた瞬間宮西さんからの視線がやばかったけど見なかったことにしよう。あれは人を殺す目だ。
「は〜〜〜……なおゆき、2桁勝利おめでと」
「……あ、ありがとうございます」
「嬉しいなぁ……」
「……っ、」
ぽつりと呟いた一言を聞き逃さなかった。後輩投手が勝った時、いいピッチングをした時、セーブやホールドを記録した時。いつもいつもまもさんは自分のことのように喜んでくれていた。今回は、自分に対してその喜びを伝えてくれて、2桁勝利とこの一言でさらに舞い上がってしまいそうになる。
「なおゆきはかっこいいからねえ、いや、昔からかっこよかったけど今年すごいたくましくなった。うん」
「……まもさん褒め殺しっすね」
「まあそういう日もあんねん」
「普段はそうじゃないんですか……」
「普段も出来るだけ言ってるつもり」
「もっと言ってくれてもいいのに」
気づいたらまもさんの温もりは背中になかった。名残惜しい、と言ったら引かれてしまうだろうか。俺から離れたまもさんは、他の選手が着替えているにも関わらず全然気にせず、自分の着替えを持って外に出て行った。
25「上沢あとでコロス!!!!!」
「やめてください!!!!!」
ドキドキはおやすみ
20190309