プライド

□彼女はきっと冬をこせない
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いよいよ、この季節がやってきた。毎年毎年、この時期になると気が引き締まる。ありがたいことに、今年も開幕1軍を勝ち取らせてもらった。大谷くんや平野さんが渡米し、お世話になった人たちもファイターズを離れた。私は、そんな人たちにどんな形で恩返しができるだろうか。それはきっと、今年も私らしく、全力で投げるだけ。
そんな私も、ひとつの決断をしようと思っている。



* * *




「失礼します」


「おう、どうした話って」


「すごく言いにくい話なんですけど、きっと監督なら落ち着いて聞いてくれると信じて言います」


「今まで守里には無理させてきたっていう気持ちもある。だから何でも話してくれて大丈夫だから」


「ありがとうございます。……えー、私岸田守里、2018年シーズンをもって現役を引退しようと考えています」


「引退、するのか」


「はい。去年の終わり頃から考えていました。年齢的にも今年28歳、ここまで女子プロ野球という場があるにも関わらず、男世界であるプロ野球の現場で男性と同じように1軍で怪我なくプレー出来ていたのも、監督や周りの選手、裏方さんたちのおかげでもあります。体力的にも身体的にも精神的にもまだまだ出来ると思っていますが、やはり私は女性です。ここ数年のプレーで、そう実感することが増えてきたので、そう決断しました。一応宮西さんには伝えてありますが、他の選手には伝えていません。伝えるのは、今シーズンが終わってからでお願いします」


「そうか、うん。よくここまで頑張ってくれたな。それじゃ、守里のためにも今シーズンは不甲斐ないシーズンには出来ないな」


「そのためにも、私が投手陣を始め、選手達を翔さんと一緒に引っ張っていきます」


「頼んだ。……そして、今年も守里らしく投げてくれ」


「はい!」







彼女はきっと冬をこせない

20180402


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