奥村くん

□本番直前
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神社の別棟にお世話になるため、みんなで寝床の準備をする

部屋数は十分にあるため、女子は別の部屋を用意してもらった



自分は少し敷地内の様子を見てこようと、みんなを残して外に出た











境内は催しのための舞台や的、出店にやぐらが組まれている


広い境内を目一杯使った一大イベントのようだ




だが少し奥まった場所にある本殿の周りは静かで、何も無い




本殿の階段に近付くと、昔の記憶が蘇る

小学生の頃、橘さんと初めて出会った時の記憶が




本殿に腰を下ろして境内を見る

彼女が弓で狙った鳥居も、隠れていた悪魔を落とした御神木も、記憶のままだった






『あれ、奥村くん?』


「!」





ぼーっと景色を眺めていると、暗闇から声が聞こえてくる

思わず立ち上がって声の主を見るが、見慣れた人が現れて、ふ、と息を吐いた





「……橘さん」

『ごめん、驚かせたね』

「いえ、そんなことは」




私服に着替えたひなたが本殿に現れる

ほんのりと赤く染まっている頬と、少し濡れた髪に、風呂上がりだと察して雪男は目を背ける

そしてまた、本殿の階段に腰を下ろした




『こんなところで一人?他のみんなは?』

「みんなは別棟で寝る準備をしています

僕は少し見回りを」

『仕事熱心だね』

「……そうでもないですよ


ここは、懐かしいので」

『!』

「あの時と何も変わっていない」




懐かしむように呟く奥村くんの横顔に目が惹きつけられる

だが、私の記憶の中に彼の姿は無い


彼がここに来たことがあるなら、私が知らないはずが無いのだ






『……いつ?』

「え?」



夜風を頬に感じながら、懐かしい境内を見つめる

その時にふと投げられた、彼女の質問







『私は、いつ奥村くんと出会ったの?

もしかして、ここで?』

「………さあ、どうでしょう」

『何で隠すの?』

「思い出さなくて良いことだからですよ」




にこりと笑う奥村くんは、優しい顔で笑っているが、それ以上突っ込まないでくれ、と壁を張られているようにも感じる


踏み込ませない、彼の独特の笑顔が少し苦手だ





本殿の階段を上がり、彼の隣に腰を下ろす

すると奥村くんは、少し戸惑う様子を見せた


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