奥村くん
□揺らぐ日常
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悪魔を完全に認知した橘さんは、次の日から普通に過ごしているように見えた
友達と話し、授業を受けて、終われば部活に向かう
いたって何の変哲もない、普通のクラスメイトに見えた
神社の娘だし、そういった類のものへの理解はあるんやろか、と思っていた
「橘さん、最近大会で調子悪いそうですよ」
ある日の祓魔塾の授業終わり、志摩がそんな話を持ってくる
兄貴の方の奥村は橘さんのことをそもそも知らなかったため、子猫丸が説明していた
勝「……そらそうやろ、いきなり悪魔が見えるようになって、祓魔師がいるーとか言われて
理解したように見えても、動揺はあるやろし」
子「慣れろ、と言われても…って感じですよね」
神「それ、今度の神事大丈夫なの?」
意外にも話に混ざってきたのは、神木だった
聞けば神社同士の繋がりで、古い神社出身の橘さんのことは知っているという
神「あの神社、そろそろ神事があるはずよ
橘ひなたはいつもそこで、弓使いの巫女としての役割を担っていたはず
大丈夫なの?」
勝「詳しいな、神木」
神「毎年ニュースとかでも取り上げられる大きい行事だからね
グダグダになって神社の名に泥を塗る、とかにならないと良いけど」
ふ、と意地悪な笑い方をする神木に、勝呂はやれやれと息を吐く
ふと雪男に目を向けると、彼は何かを考え込むような様子が見えた
*
タァン
一人、道場で黙々と弓を放つ
だがどれも真ん中に命中はせず、ひどいものは的にすら当たっていない
弓を構え、弓の弦に矢を番える
真っ直ぐ的を見ると、先ほどまでは居なかった黒いモヤが的の近くに浮いていた
びく、と指先がぶれる
だめだ、集中しろ、あんなものは無視しろ
そう自分に言い聞かせて、手を離す
だが、矢は虚しく的の中心から外れた
『……はー…』
弓を下ろし、的から目を逸らす
息を大きく吐き出して、俯いた
その時、道場の床が軋む音がして、顔を上げた
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