奥村くん
□事件
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タァン
弓が的に当たる音は心地良い
極限の集中
軋む弓
それらの緊張を一気に放出し、真っ直ぐに伸びる矢
それが的に刺さる音は快感だ
特待生で入部したとはいえ、正十字学園の弓道部はそんなに人数がいるわけではない
昔から大会で戦ってきた相手も混ざっていたりするので、わりとフランクな部活だ
それに個人技ということもあり、一人一人が自分と向き合って集中している
もう一度矢をつがえて、足を開き、ゆっくりと弓を引く
キリキリと弦がしなる音が耳元で聞こえてくる
真っ直ぐに的を見つめ、真ん中を狙う
ぐ、と胸に力を入れて、弓に負けないように腕を引く
パ、と手を離せば、また矢は真っ直ぐに的に伸びた
タァン
矢は中心から少しズレた
『…………?』
「あれ、珍しい。橘がずれるなんて」
『……ちょっと気が緩んだかもしれないです』
いや、そんなはずはない
矢は真っ直ぐに伸びていた。的の中心に間違いなく刺さるはずだった
じ、と遠くに離れた的を、目を凝らしてよく見る
よく見ると、黒いモヤが見えて、それに私の矢が刺さっていた
『(………変なの、いる)』
はあ、と息を吐く
あの矢を回収しに行くのは億劫だと思っていれば、たまたま矢の回収に行っていた同級生がついでに外すよ、と声をかけてくれた
『あ…、待って』
変なのがいる、とは言えずに少し戸惑っていると、友人は気にせず私の矢を取りに行く
そして私の的に刺さる矢を回収しようと手を伸ばしたところで、ぐらり、と身体が倒れた
ざわ、と道場に緊張が走る
急に倒れた友人に先輩たちが慌てた様子で駆け寄り、何やら騒ぎになっている
私も慌てて友人に駆け寄ると、ぞわ、と背筋が冷えた
『(………さっきの黒いモヤが、入ってる)』
矢で射抜いた黒いモヤが、友人の身体にまとわりついている
見えたわけではないが、気配で分かった
どうしよう、私はお祓いの類は出来ないし、知識も何もない
どうする、友達が危ない
『っ、ちょっとどいて…!』
袴の中にしまっていたネックレスを引き千切り、友人の胸に置く
『出ていけ…!』
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