藤の精

□鬼との遭遇
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もともと町外れの山の麓に構えている我が家は、買い出しに行くには少し時間がかかる





「……屋敷の外は、こんな感じだったのかァ」



歩き始めてすぐに、不死川さんが感慨深そうにそう言った

彼はずっと布団から動けなかったし、動けるようになったのはここ最近のこと。しかも行動範囲はうちの敷地の中だけだった

屋敷に運ばれるまでも意識が無かったようだから、屋敷の外の景色は本当に初めて見たのだろう






「……綺麗なところだなァ」


『……。』




穏やかに吹く風で不死川さんの髪が揺れる

気持ちよさそうに景色を楽しむ彼の横顔を見ていると、甘い胸の高鳴りがした





ともに過ごすうちに、自分の中にある感情が生まれていたことに気が付いたのだ






「で、買うものはどの店だ?」

『行きたいお店は何箇所かあります

そんなに離れたところではないので大丈夫だと思いますが、何か具合に異変があったらすぐ言ってくださいね』

「分かってらァ」




胡蝶や蝶屋敷の家の人間たちのように口酸っぱく言う雪さんに、思わず笑ってしまう

彼女もずいぶん蝶屋敷の人間らしくなってきた







「あらっ、雪ちゃん今日は男の人と一緒なんかい?」

「こりゃまた格好良い剣士様だぁ」

「門下生さんじゃないねぇ」

「雪ちゃんももうそういうお年頃だもんねぇ」




彼女は町の住民たちから可愛がられているらしく、寄る店寄る店で声をかけられていた

それに恥ずかしそうにしながらも、無下にはせず、きちんと話しを聞く姿は、やはり器量のいい娘だ




自分には勿体ないほど、いい娘だ






『不死川さん、お疲れではないですか?』



店主と話し終えると、必ずこうして俺の身体を気にかける

大丈夫だ、と返すと、嬉しそうに少しだけ微笑む。その姿に胸が高鳴るのを感じていた






行く店で毎回彼女や俺は店員に絡まれたため、買い物にはかなりの時間を要した













『ずいぶん時間がかかってしまいましたね』


「そうだな…、それにしてもアンタは人気者なんだなァ」


『そんなことないですよ』





荷物を二人で分け合って持ち、屋敷に戻る道を歩く


あたりは暗くなっており、日が完全に落ちていた






『……おかしいな』

「!

どうした?」

『…いえ、その、いつもはこんなに早く暗くなるはずがないんです

この道だって、普段は民家の明かりでもっと明るいはずなのに




………誰も、いない、みたい』

「!!」


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