未来図

□誘拐事件
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「好きだ、俺と付き合え」





気に食わない発言から数ヶ月後


爆豪くんからそう告げられた






『私も好きだよ』





自然とそう返した私に、彼は珍しく、柔らかく笑ったのを覚えている






想いがお互いを向くようになったきっかけは何だっただろう


体育祭までは関わりなんてほとんどなくて、何なら嫌い合っていたといっても過言ではなかったのに




あぁそうだ、林間合宿の時だ

敵に襲われて、爆豪くんが拐われたあの時だ








***






それは夕飯作りの時だった


見事な包丁さばきの爆豪くんを見て、純粋に「何でもできる人なんだなぁ」と思っていた時


ほんの少し、爆豪くんに意識が向いたその瞬間



私の頭の中に映像が流れ込んできた






未来予知の個性が発動したのだ





そして流れてきた映像に、血の気が引くのがはっきりと分かった





倒れる葉隠と耳郎、血まみれの八百万、ボロボロになっている緑谷


そして、敵に攫われる爆豪の姿





その全てが頭の中に流れてくると、私は持っていた料理器具を地面に落とし、自分もがくりと膝を折った






「雫ちゃん?!」

「時並?!」






はぁ、と息が荒くなる

呼吸の仕方を一瞬忘れてしまった




「大丈夫か時並!」



切島くんが駆け寄り、私に手を差し伸べてくれる

だがそれよりも、奥で訝しげな顔をする爆豪くんに意識が向いた






『(爆豪くんが危ない)』



混乱する頭でなんとか結論を導き出すが、彼のことだ
忠告したところで聞きゃしない

何か、違う手を考えなければ









「………テメェがペアか」


『そうだよ、よろしくね』






にこ、と当たり障りのない笑顔を浮かべるも、彼はちっと舌打ちをした

そう、肝試しのペアを細工して、爆豪くんと同じにしてもらったのだ

そうすれば、彼が巻き込まれる危険を予知できるし、未然に防げるはずだから






そう、思っていたのに










『爆豪くん!!』





未来予知で何が起こるかは分かっていた

でもそれを防げるほど、私は強くなかった






伸ばした手は彼には届かず

また、彼が一瞬伸ばした手も、誰も届かなかった




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