白百合は強し

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「ーー生、先生

百合先生!」




誰かが肩をたたく

それに、は、と意識を取り戻した





『……樋口…?あれ、私寝てた…?』

「机に突っ伏して寝たら身体痛くなりますよ、お疲れなんですか?」




むくりと身体を起こすと、肩や腕がばき、と嫌な音を立てた
変な体勢で寝ていたせいで、身体が固まってしまったようだ





「……先生、嫌な夢でも見たんですか?涙が…」

『え……、あ、本当だ』



樋口に指摘され、自分が涙を流していたことに気づく
夢を見ていたのだろうが、あいにくそれを思い出せない

慌てて涙を拭い、樋口を見た






『寝ててごめんなさい

それで、何か用?』

「はい」





真剣な顔の樋口から告げられた言葉に、思わず目を見開いた




太宰治を捕らえた、と











***





カツン、と階段を降り、薄暗いその部屋に赴く



中からは人の話し声が聞こえてきた









「二度目はなくってよ!!」




その声に、え、と思わず声を出す

聞き覚えのありすぎるその声に、誰なのか見当はつく。だが話し方が、変だ







『……中也?何してるの』


「げ、百合!」






階段の下では、数ヶ月ぶりに見る中也がいた
私の顔を見るなり思い切り顔をしかめ、私の元まで階段を駆け上がってくる

なんだなんだ、と彼をぼんやり見ていると、間延びした声が聞こえてきた










「やぁ百合、久しぶりだね」








中也よりもさらに奥、捕虜を捕らえておく部屋の中から聞こえたその声は、懐かしいものだった







『……久しぶり、太宰』





手枷すら付けていない太宰が、ふらりと私の前に現れた







「まさか君にも会えるなんて、相変わらず君は綺麗だね」

『そう』

「つれないなぁ
この私が口説いているというのに、君は一度も私に靡いてくれた事がなかったね」

「おい百合、何で此処にいる」



太宰との会話を分断するように、中也が私と太宰の間に入る

それに私は、少し呆れ気味に口を開いた







『さっき樋口から、芥川が太宰を捕らえたと聞いた

で、その後に中也の部下が来て、中也の姿が見えないが何処に居るかご存知か、と尋ねられた



太宰が捕まった日に中也が帰還し、さらに姿が見えなくなる、と来れば…』

「中也は私の元に来る」

『その通り

貴方の事だから、太宰に嫌がらせしに来て、返り討ちに遭ってるんだろうと思ったのよ』

「流石だね、百合

全くその通りだよ」

「五月蝿ぇな!!」



中也が不機嫌そうに太宰に突っかかる

太宰の手枷が外れてる事と、室内に若干の戦闘の跡が見られることから、何があったのか大体察する事が出来た



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