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□ひとりごと
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僕は、ヒョンの名前の前に付く「故」という一文字を、この先一生受け入れることができないだろう。
彼のSNSのアカウントが何事もなかったように更新される気がするし、練習室に現れて当然のようにコンサートの準備を始め、ステージに意見する真剣な眼差しがすぐそこにあるような気がする。
ソロの新曲を聞かせれば、言い聞かせるような安心感あふれる声音で率直な感想を述べてくれる気がするのに。
自らが現実を受け入れさせようとするように、狭い箱の中で目を開けることなく眠り続ける顔がフラッシュバックして。
恐怖、後悔、不安、虚無、悲哀……。
負の感情の塊のようなものが心を埋め尽くし、闇の奥底に引きずり込まれるような心地がする。
ヒョン、どんな言葉が欲しかった?
ここはそんなにも生きづらい世界だった?
誰が隣にいても、結末は変わらなかった?
聞きたいことは山ほどあるけれど、答えは宙に浮いたまま一生解くことができない。
遺した文章から読み解くものの大半は僕らの解釈で、事実を知る本当のヒョンはもうどこにもいないのだから。
「お疲れさま」
そんなひと言が欲しかったのなら、毎日、日に何度でも言ってあげたのに。
けれど、実際のところ、こうなる前に頼まれ本当にやり遂げたかと問われたら、自信を持って答えることができない。
そしてそんなこと以前に、いくら後悔したって「もう一度」はないのだ。
二度とない。
どこかでしっかりと受け入れている自分がいる。
もういないのだ。
明日も明後日も、来年も。
一生戻ってこない。
そう理解している自分とは別に、事実を拒絶している自分がいる。
こうして頭を巡らせ整理をしてみようと試みたって、一方の気持ちを優先すれば片方が置き去りにされるだけで、何の解決にもならない。
いつか分断しているふたつの自分が融合するのだろうか。
それはそれで、受け入れたくはない。
僕は我が儘なのか。
ヒョンは言うだろう。
それはそれで自分なのだ、と。
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