三つ編み少女

□三つ編み少女 髭
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「……ねえ、その本好きなの?」

授業と授業の間の休憩時間中。

突然、騒がしく暴れる音と人の中ふいに声がした。

私はその声のする方に目を向けた。

そこに居たのは、少し幼さを感じつつもその目にはまるで光を感じさせない瞳を持った男の子のようだった。

その本、というのはいつも持ち歩いている古い宇宙の本のことだろうか。


「この本を知っているの?」

私は驚いて、目の前の男の子に聞いてみた。

「うん。知ってる。」

光さえ飲み込んでしまいそうな黒い瞳が、頷(うなず)くとともに光を写す。

「な、なんで知ってるの?」

「ぼくの家にもあるから。」

少し微笑んだ口から出てきた言葉とほころんだ顔に再び驚いた。

「知らなかった……。

てっきり、私だけしか知らないのと思ってた……。」

独り言のように私はつぶやいた。

「きっと、昔に流行ってたんだよ。」

つぶやいた独り言が聞こえたのだろう。

私に男の子はそう言った。

「あのさ、確か同じクラスだよね?」

おそるおそる聞いてみる。

男の子は私を見ると、

「うん。そうだよ。」

頷くと、名前を言ってくれた。

「※※※だよ。よろしく。」

そう言うとチャイムが鳴り、みんなが席に着く。

さっきまでにあった光景など、跡形もなく時間は過ぎ去っていく。



優しい人。第一印象はそんな感じだった。

瞳の奥の見えないくらいの真っ黒な目をしていて、怖かったけど会話中に見せた笑顔が忘れられなかった。


中学校に入って、初めてかもしれない。


声をかけてもらったの。


暗い印象と堅苦しい三つ編みとメガネのお陰で、誰も私と話そうなどと近寄る人はいなかった。

別にそれはそれでいいと思った。

変に気を使うよりはましだし、ひとりは楽だから。

何より父のによる呪文のような文句に縛られて気を抜くと、余計な事を言いそうなのだ。

私の悪い癖だ。

意識しなくても、口からその人が嫌だと思う事をはっきりと言ってしまう癖。


気付いたら相手の心は傷だらけで、周りからは冷たい目で見られるようになった。

だから、転校してきた。

転校というか。入学というか。

まだ、当時小学生だったにもかかわらず私は不登校を決め込んだ。

それがきっかけなのか、大学まで一直線コースをはずしてもらった。

親はせめてもの救いということで、中高一貫のこの学校に入った。
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